エド子SS
余裕の無い恋 act.1





「…エドワード……」





傍迷惑な声帯が紡ぎだす声はいやらしく甘く痺れを齎しながら耳から脳へ浸透した。
ぶるり、と身体が震え頬が勝手に紅潮してしまうから、俺は眉間に皺を寄せて顔を振り耳からロイを遠ざけようとした。

「よせったら!」

「何故かな?」と時と場所も弁えず、至極当たり前に聞き返してくるのでやってられない。

「ここは大佐様専用の仮眠室だよな?」
「そうだな。」
「その扉の先は執務室だ。」
「間違いない。」
「で、その向こうの扉を開けると俺の愛する弟とアンタの腹心の部下達がいつ入ってきてもおかしくない状況で仕事をしてる。」
「…で?」

で?じゃないだろう!何だこの状況は。










大佐は会議に行っているとホークアイに言われ、慢性化した睡眠不足で少し顔色が悪いのを心配したのかロイが戻るまでの間仮眠室を勧められた。
司令部には報告書を出す為だけに寄ったため、今回はすぐに旅に戻る予定。
だからこそ本来ならば図書館や資料室に行って時間を潰すアルだって珍しく司令部で皆とゆっくり談笑しているのだ。

この司令部に詰めている大佐から信頼を受ける部下達は俺の性別が本当は『女』である事を知っているから、大佐専用の仮眠室を当然と勧めてくれる。
まさか男性と偽っているのに女性用の仮眠室に行くわけにもいかないし、男性用の仮眠室はあまりにも危険過ぎるから。

せっかくの思いやりを無碍にもできず、俺は渋々仮眠室を借りてベッドに入った。
頭で思う程身体の疲労は簡単なものではなかったようで、眠りの波はすぐにやってきてそのまま身を任せたんだが…。



ちょむちょむと唇に触れる感触と全身にかかる重さにのろりと瞼を上げてみたら、本当に顔がぼやけて確認できない程近すぎる距離に奴がいた。
頭がまだ稼動しておらず何をされているのか、どんな体勢なのかを認識できるまでに数分かかってしまった。
無論その間も寝惚ける俺に絶え間なく唇が落ちてきていた訳で、左手で腰を抱かれ右手を首の後ろを抑えられておいそれと身動きもとれなかった。

啄ばむような優しいキスは唇だけでなく額や頬や眦にも落とされ、怒る前に気持ち良さでうっとりしてしまったのは多分ロイにも気付かれてしまっただろう。

俺は我に返ると同時に恥ずかしさが込み上げてきて思わず右手で思い切り頭を殴ってしまった。

そして冒頭へ、ってこと。








「はーなーせー!」
「嫌だ。」

全く不毛な会話が続いている。
そりゃあ俺だって1ヶ月ぶりに会ったんだし、いちゃいちゃしたいよ?

でもこの体勢ってどう考えても普通のいちゃいちゃじゃな…い。
ベッドの上で抱き込まれ組み敷かれたまま、俺は精一杯ロイを睨みつけた。


俺ははふりと大きな溜息を吐いて譲歩案を挙げる。

「俺が悪かった、今夜はイーストシティに泊まっていくから夜まで待て。な?」

それでもまだ憮然とした表情のロイ。
泊まっていく。夜まで待て。ってことは俺がなんとかしてロイの家に泊まりに行くっていうことだ。
ここまで言っているのに何が気に入らないんだよ!

「…いや、泊まりに来てくれるのはとても嬉しいんだが…」
「だが?」

それでも退かない身体が納得いかないと告げている。

「なんだか私だけが君に会いたくて、抱きしめたくて仕方なかったみたいで…なんだか一方通行みたいで…」

ぽかんと口を開けてしまっている俺の顔を見て途端に赤面する27歳国軍大佐。

「ばっ…ばかアンタ!」
「馬鹿とは何だ!失敬だぞエドワード!!」

見た事もない、あまりにも可愛い表情をした14も年上の男が愛しくて可愛くて俺は口元を隠してくすくすと笑ってしまった。

無論ロイの機嫌は益々悪くなる一方で、でもその眉間の皺まで可愛く見えてしまって、俺は普段なら普段なら絶対言わない言葉を口にしてしまうのだ。



「本当に馬鹿だ、俺だって会いたかったんだぞ?」

ロイの軍服の背中に両手を回してぎゅっと抱きしめてやったら益々赤面して心底驚いた顔してやがる。





やばい。赤面するのは俺の番みたいだ…。





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