ロイ×エド子吸血鬼パラレル3
涙の置き場所










※ このお話はパラレルです、苦手な方はくれぐれも気をつけてください。








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誰が用意してくれるのか何一つ解らないまま、暖かい食事をワゴンに乗せて持ってきてくれたのはロイ本人だった。
ベッドで食べろと言う彼の言葉に、そういう怠惰は好かないときっぱりと拒絶してやったら、いい年(何百年っていい年とか言うのだろうか)こいた大人のくせに一瞬拗ねたような表情を見せたのを俺は見逃さない。

渋々と部屋に備え付けられていた猫足の豪奢なテーブルに美味しそうに匂い立つ料理を並べてゆく。
椅子の背もたれに柔らかい大きなクッションを敷き、満足したのだろうか、うんうんと頷いて俺に向き直ると、まるで淑女を相手にするかのように恭しく手を差し出してきた。

ぽかんとその手を見つめる俺に苦笑して、そっとベッドに置かれたままの右手を掬い上げる。

そんな扱いをされたのがまず初めてで、照れるとか怒る以前にどう反応すれば良いのか解らなかった。


「暖かい内に召し上がれ。」

「あ、うん?」

「アルフォンス君は君が寝ている間に食べたから大丈夫。」

「そっか。」


俺を座らせるとロイは優雅な仕草で椅子を前に出してくれた。

自慢じゃないが俺は食事のマナーなんてこれっぽっちも知らない。
綺麗に並べられたフォークとナイフも、俺からしたらフォーク1本で全部食えると思っている。
使わないと駄目なんだろうか。
いや、ポタージュをこの丸いスプーンで飲むくらいは知ってる、多分。

ふと料理全体を見回して、疑問がわいた。
なんかおかしい。
どうして肉料理ばかりなんだ?野菜がほとんどない。
外は見事なドレープを描く遮光カーテンで隠されていて日の光も漏れて来ないから、もしかしたら自分が随分と寝過ごしてしまっただけで今はディナーの時間なのだろうか。

目の前に座りにこにこと笑っている吸血鬼に視線を戻し、俺は疑問を口にした。


「なぁなぁ…」

「ロイ、だろう?」

「…だってそれ聞かれたら駄目なんじゃねぇの?」

「さっきまで呼んでくれてただろう?」

「だってそれは…。」

「今は二人きりなんだからいいじゃないか、ロイと呼んでくれたまえ。」


随分と偉そうな口ぶりだが、あまり細かい事に拘らないタイプなので、気になった時に力いっぱい突っ込んでやろうとその事は軽くスルーしてやった。


「じゃあロイ、今って夜なのか?」

「いや、カーテンが引いてある時は大抵夜以外だよ。今は朝の九時を少し回ったくらいかな。」

「じゃあ………これは朝食?」

「そうだね。」


しれっと答えるロイに頭痛がする。
朝からこんなに脂っこい…いや、まだ若いせいもあって肉は正直大好きなのだが、弟もいる手前栄養の偏りは気にかけるようにしていたのだ。
野菜を摂らないと駄目なんだよ、人間は。


「これ、ロイが作ったんじゃないよな?」

「無論、私はこういった食事は摂らないからね。」

「ってことは…アンタの友達っていう人か?」

「実質彼等がこの城を切り盛りしてくれているよ。しっかり者ばかりだからね。」


彼等…ということは複数人数いるんだな。
間違いなくモンスターなのだろう。
会ったばかりの時、死にたがっていたロイは自分の同属はもうこの世にいないと言っていた。
じゃあ。


「肉食………か?そのオトモダチさん達は。」

「良く判ったね。」

「…こんな朝から肉ばっかり出されてみろよ…見てるだけでもたれるじゃねぇか…。」


げんなりと肩を竦めて見せれば慌てて立ち上がるロイ。
何を始めるのかと俺はちょっぴりヒヤヒヤしながら見つめていた。


「すまない!すぐに新しいものを用意させるよ!!少しだけ座って待っていてくれないか?」

「まてまてまて!そんな勿体無い事しないでいいってば!」

「しかし君の口に合わないものを出すなんて…っ!」


立ち上がり、今にも走っていってしまいそうなロイの黒衣の袖をぎゅうと掴む。
たかがそれだけの衝撃で、よろけたロイを全身で受け止めた。
まだ体力も回復できていないくせに、本当に無茶するなこの吸血鬼は。


「いいから!これ食うし。」

「………。」

「もしかしたら俺の貧血心配してくれてたのかもしれねーじゃん。」

「………そこまで気の回る奴等ではないと思うよ。」

「とにかく、俺がいいって言ったらいいの。俺等とあんた達じゃ必要な栄養も生活もなんもかんも違ってて当然なんだから。」

「ふむ、そんなものか。」


話ながら自分でも納得した。
常識がまるまるのだ、間違いなく。

ならばすべき事は沢山ある。
俺はこう見えて割りと柔軟な人間だと思う。
アルフォンス程ではないけど、きっと彼等とも上手くやっていけるだろう。
人間誰もが、それはもう親兄弟でさえ妥協とか我慢とかは必要なものなのだから。

ぐいっと握っていた袖を引き、再び椅子に座らせた。
俺自身も元の椅子に腰掛けて、改めて料理と向かい合う。

多少冷めてしまってはいたが、見た目は至って普通の………焼いただけのステーキだ。
付け合せがソーセージと生ハム?らしきものなのも、大丈夫、いけるいける。


フォーク手に取って、手始めにソーセージらしきモノにぷすりと刺してみた。
とろりと滴る肉汁が…って、これ中生じゃないの?肉汁?血??!!
レアどころの騒ぎじゃないんだけど!
豚肉だったらどうしよう、普段あまり食べなれないから違いが解らねぇ!!
でもソーセージって大概豚肉だよな…。

ぶんぶんと頭を振り、気を取り直してフォークからソーセージを抜き取る。
美味しそうに焦げ目の付いたステーキに突き刺…さりませんでした!
焼きすぎ?硬いっ!!
だからこれ何肉なんだ!!

どうしよう…俺これ食えない。
母さんごめんなさい、食べ物は粗末にしちゃいけませんって育ててくれたのに、今俺は母さんを裏切ってしまいそうです(泣)。


涙目になってぷるぷると震える俺を不審に思ったのか、ロイは顔を曇らせ覗き込んできた。


「どうかしたかね?何か問題でも…。」

「うっ…うぅ…。」

「…!!エドワード?!」

「………だ………」

「だ?」

「だぁぁぁれだ食べ物を粗末にしやがった糞呆け肉食生物はぁぁぁっ!!!許さねぇぞ呼んで来いロイっ!!」


突然キレて声を荒げた俺に、ロイは肩をびくりと震わせる。
ぽかんと開いた口で彼がどれだけ驚いているか手に取るように解った。
怒りに震える掌をぐっと握り込み、どん!とテープルに突く。

だっていけないんだぞ、食べ物を粗末にしちゃいけないって母さんが言ったんだ。
だから俺もアルもそれをきちんと守って生きてきた。
どんなに食事の不味い宿屋にあたっても、残さずきちんと食べてきたのに!

突然湧き出した感傷に旅を始めてからずっと流すまいと決めていたはずの涙がぶわりと視界をぼやかす。
顔を真っ赤にしてぼろぼろと溢れ出した涙が、毛足の長い絨毯に点々と染みを作っていった。


「……エドワード!今お仕置きしてきてやるから、泣かないでくれないか?」

「うー…っ!」

「そんなに酷かったのか?これは…すまなかったね、私も何百年とこのようなものを目にしてこなかったから…生まれてこのかた食事は血液だけだったし………解らなかったんだ。」


頬を滑り落ちる水滴をひんやりとした男の手がそっと撫でる。
火照っていたそこが冷やされて、すっと心の熱も引いていった。
涙を流してしまったという事実が妙に後ろめたく、俺は俯いたまま顔が上げられなくなってしまった。


「エドワード?」


ロイの声が優しげに耳に響く。
その時、こんこんと軽いノックの音がして、ロイが入室を促した後アルフォンスがからからと何かを押して入ってきた。
音だけなので解らないが、どうやら先程ロイが料理を運んできたワゴンとと同じもののようで。


「姉さーん!ご飯作ってきた………よ、って遅かったかー…。」

「アルフォンス君…。」

「すいませんマスタングさん、この料理は正直食べたらヤバそうだったので、僕が適当に森に出て色々採って来て料理作ったんですが…。姉さん泣いちゃってますね。」


切な気で、でもどこか嬉しそうなアルフォンスに、ロイは困ったように笑って見せた。


「すまない、君のお姉さんを泣かせてしまった。」

「違いますよ、きっとあの食べ物を粗末にした狗っころが悪いんです。」

「狗っころ?」

「そう、金色の髪で青い瞳の狗。」

「ハボックか…。全くあの馬鹿は。」

「すいません、勝手にお仕置きしちゃいました。」


てへっ、と姉に良く似た無邪気さで舌を出すアルフォンスに、構わないと溜息を吐き、ロイはそのまま部屋を出て行ってしまった。

少しだけ顔を上げると、アルフォンスが先に並べられていた皿を片付け新しい料理を並べてくれる。
満足いくまでセッティングする姿は、何故か先程の吸血鬼に良く似ていると思った。


「さ、姉さん座って。ご飯食べてね?」

「あるぅ…。」


何も聞かずただにこにこと笑っている弟はきっと俺の涙の理由にも気付いているのだろう。
バツの悪さを誤魔化そうと慌ててフォークを握ると、俺は目の前のきのこのソテーに突き刺し躊躇なく口に入れた。


「あの…さ、狗っころって?」

「ああ、あの料理…とは言えないモノを作った人だよ。」

「人なのか?」

「正確には狼…かなぁ。人狼ってやつじゃないの?頭の上に毛の生えた犬みたいな耳生えてたし。」


俺はアルフォンスの言葉を頭の中で再構築した。
なんか可愛いイメージが浮かんで、食べ物を粗末にしたって事も忘れ、ほんわかとした気分になる。
俺の妄想に気付いたのかアルは慌てて手を振り、可愛い脳内ヴィジョンを打ち消してくれた。


「姉さん、その頭の中に浮かんでるの多分全然違うから!」

「えー…。てか俺が何考えたか解んのかよー!」

「大体想像つくよ。もっとでっかくてムキムキで垂れ目で煙草咥えてる。」

「………。」


あからさまに落胆している俺に、アルフォンスはそっと水を差し出してくれた。
目の前に置かれた水を一口口に含み、ほっと息を吐き出すとやはり弟は笑っていて、何がそんなに嬉しいのかと、首を傾げる。


「気持ち悪いな、お前笑いすぎだぞ。」

「うん?姉さんが泣いたから嬉しいんだよ、僕。」

「…意味わかんねぇ。」


おそらく野生のうずらかなにかの肉だろう、それを切り分けて口に放り込んだ。
視線を逸らし、必死で咀嚼する自分がちょっぴり姉として情けない。


「ここに来たの反対だったけど、僕もうどうでもいいや。」

「どうしたんだ、急に。」

「だってマスタングさんは姉さんを泣かせてくれたからね。」

「アル…。」

「姉さんは家を捨ててからずっと泣かなかったよね。長子としての責任とかなんとか思ってたんだろうけど、僕はずっと不安だったよ。いつか姉さんが押し潰されて壊れてしまうんじゃないかって。」

「………。」

「だから姉さんを泣かせてくれるこの場所なら、いてもいい。」

「ごめんな、アル。」

「ううん、それに………狗っころいっぱいいて凄く楽しいし…。」


くすくすと思い出し笑いしているアルの目が愉しげに光ったのを見なかった事にした。
お仕置きって一体何したんだアル!!!

この先紹介して貰うであろう、この建物の住人とアルフォンスの今まで隠されていた新たな一面を愁い、俺は小さな肩をがっくりと落としたのだった。







END



〜その頃のロイ〜




既にどれだけの永さを生きてきたのか、滅多な事で足音すら立てる事のない吸血鬼がどたどたと城内を走っていた。
目指す場所は一つ。
城の1F奥にある厨房だ。

アルフォンスの話ではそこにハボックと呼ばれている、ここでは馴染みの人狼がいる筈で、どんなお仕置きをされているのやら、もし足りなかったら上乗せしてやろうとロイは知り尽くしている長い長い廊下をひたすら走り続けた。


ばん!
大きな音を立てて扉を開け放つ。
そこには檻にしがみ付き必死の形相で手を差し伸べている哀れな大男がいた。

金髪から生えている常ならばぴんと立ち上がっている筈の狼耳はへちょんと垂れ下がり、人狼の威厳を欠片も感じさせない。
いや、この男は人狼の中でも異端なほどに威厳の無い男だったので、ロイは涙目になっている男に憐れみの視線を投げかけた。

アルフォンスが錬成したのだろう、その檻はがっちりと床から生えている。
中央に立つと格子がギリギリ触れない、そんな大きさだった。

ぽんぽんと肩を叩く。

漸くロイの存在に気付いたハボックは縋るようにロイの上着を握り締めた。


「伯爵ぅ…とれねぇよぉ…ちくしょー!」

「馬鹿が、食べ物を粗末になどするからだ…。」

「それさっきの餓鬼にも言われたんスけど、俺だって普段生肉しか食ってねぇのにタバコ買いに頻繁に街に下りるってだけで皆に押し付けられたんで、俺だけのせいじゃないっすよ…。」


唯一この城の中で厨房を使う者がいるのだが、彼女は今一人で街に下り、生活用品の買出しに行ってしまっている。
食事を作る事が出来る者の不在。
ハボックはたまたま運が悪かったのだろう。


「ところで何なんですか?あの餓鬼…まさかあの幼さで錬金術まで使うとは…半端ねぇな。」

「後で紹介しよう。私の部屋に皆で来なさい。」

「はぁ…。それよりも、あれ何とかして貰えませんかね?」

「いい機会じゃないか、禁煙したらどうかね?」

「ぜってー無理っす!」

「それにしてもこれは……くっ…。」


室内の状況を見てロイはこれ以上無いお仕置きだと声を上げて笑った。
そんな城主を見るのは初めてで、ハボックは大きく目を見開き、顔には出さぬまま嬉しそうに垂らしていた尻尾をゆらゆらと揺らす。

何があったか解らないが、昨日までとは全く違うこの男を変えた誰かが、今この城の中にいるのだろう。
さっき会った金色の少年だろうか?それとも他にも誰かいるのか。
そんなことを考えながら、胸ポケットに当たり前のように手を伸ばし、そこにあるはずのものが今は手の届かぬ場所にあるのを思い出して小さく舌打ちした。


そう、檻の中に入れられているのはハボックではなく彼が中毒的に嗜んでいる人間界の煙草であった。
中央にぽつりと置かれたそれは、今夜にでも買い物に行こうと思っていた男にとって最後の一箱。
満月の夜ならば、檻を壊す事もできたかもしれないが、何を構築したのかその格子はびくともしてくれず、届きそうで届かない絶妙な配置に歯痒い思いを強いられている。

ロイがアルフォンスを呼んで、檻を撤去させてくれるのは、もう少し後のことである。













END





沢山のリクエストを頂いていたにも関わらず、随分と間が開いてしまいました。
ハロウィン時期にちなんで更新ですよ。
今回出てきたのはハボだけ、しかもまだ姉さんには会っていません。

涙の置き場所、如何でしたでしょうか?
相変わらずたいしたことない話をだらだら書いてるとか思われてたりするかもですが(笑)
私なりに頑張ったつもりでおりますので、皆様にも楽しんで頂けたら幸いです。
原稿の合間の息抜きにもなりましたしねー!
えへへ(笑)

pana 2006/9/24








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