ロイ×エド子吸血鬼パラレル
はじまりの夜










※ このお話はパラレルです、苦手な方はくれぐれも気をつけてください。








*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*--*




















俺達は旅をしている。
両親を亡くし、頼る身内すら無くただ途方に暮れた1年と少し前。俺は12歳、弟が11の時だ。
子供だけの二人旅は危険だらけ、ましてや両親が遺してくれたお金ももう残り僅かで、父親譲りの錬金術が生計を立てられると知ったのは旅に出てすぐの事だった。

中途半端な錬金術は危険だと、俺達を拾ってくれた人がいたが、吸収の早い俺達に教えられる事は僅かだったようで半年でその家も飛び出してしまった。

迷惑だと思ったから。
何の見返りも無く俺達兄弟に寝る場所を与えてくれたカーティス夫妻には今でも感謝してる。
していたからこそ、俺達は旅に出た。


あれからまた半年―――――。


「アル、腹減った。」
「兄さんたら…でもそろそろ稼がないとお金も底をついてきたよねぇ…。」
「だよな、次の街についたら広場か酒場行ってみるか。」
「うん!」


師匠のお陰で俺達の錬金術は格段に腕が上がっていた。
以前は小さなものを修理したり作ったりできた程度だったが、今では一人でも貴族のお屋敷一つくらいはなんとでもできる程。


性格のせいか破壊的であり大雑把な俺の錬金術と、繊細な弟の錬金術。
相性はとても良く、お陰で金も稼げたしある程度の危険から身を守ることもできたのだ。





「うぇ、そろそろ野宿すっか?真っ暗になっちまったな。」
「次の街まではまだ結構あるみたいだもんね。」


適当な場所を探す。それは木の上だったり、雨風が凌げる洞穴だったり。

ふと弟、アルフォンスが立ち止まり口を開いた。

「そろそろどこかに落ち着いた方がいいんじゃないかな、
野宿なんて危険すぎるよ、僕はともかく兄さんは……女性なんだから。」
「アル…。黙れ、俺は男だ。」

寂しそうに俯く弟に俺は心の中で謝罪した。

優しい優しいアルフォンス、自分の事は二の次でいつも姉である俺の心配ばかりする。
それでも俺はお前を守りたいんだよ。
たった一人の血を分けた姉弟だから。

アルの幸せになった姿を確認するまで、男でいる事に決めているんだ。

あの日、俺達を愛し生み育ててくれた両親の墓前で誓ったのだから。








今日の寝床は大きな木の上になった。
太く広く両手を広げるように立っていた大木の腕の中。
確かに寝返りは打てないし、窮屈極まりないのだけど、そんな自然の寝床を俺はとても気に入っている。
冬は危険だが、今は秋。
頬を撫ぜてくれる風も心地よい。


アルフォンスは師匠の家を飛び出してからというもの、常に野宿では俺より地面―――何者かに襲われた時などに危険な場所―――に近い方で寝るようになった。
最初は怒って抵抗もしたが、それくらいは譲って欲しいと泣きそうな勢いで懇願されて譲らざるおえなかったのだ。

まだ12歳とは言え、やはり男の子っていう事なんだろうな。
すぐ下の枝から小さな寝息が聞こえ始めたのを確認し、俺は小さく溜息をついた。


明日の為に自分も寝なければ、と目を瞑った時、少し離れた草の生い茂った場所からガサリと音がした。

俺は上半身を起こし、息を詰めてその方角を見る。

鬱蒼とした森の入り口。
日が昇ればそんな雰囲気ではないのかもしれないが、夜も更けた月の無いこの夜にはそんな形容しか思い浮かばない。

胸ポケットから出した銀色のケースからチョークを取り出し、木の幹に音を立てないように計算し尽した練成陣を書く。
いつ襲われても両手を添えるだけの状況だった。


感覚と研ぎ澄ます。
自分より下にアルフォンスがいるのだから、どうにか先手を打ちたい所。

獣なのか人間なのかすら解らない状況で、目を凝らしてみてもやはり見えるのは暗闇に覆われた森だけだ。
最初の物音、あの時は間違いなく『何か』がいたはず。

気のせいだったのかとも思うが、念には念を入れて周辺を調べる事しよう。
俺はともかく、せっかく気持ちよく寝ているアルが起きたら可哀想だ。

軽く太い枝を蹴って地面に降りる。
すとっと軽い音を立てれば、それに反応したのか再び何かが動く気配を感じた。

敵意は感じない。
ただ、気付いてしまった。
人でもない、獣でもない『何か』。始めて遭遇したその不思議な『何か』に激しく興味そそそられてしまったのは、俺なのだから仕方ない。
(またアルに怒られそうだ…。)


気配のした方に向かって歩く。
緊張は解かず、気配を消す事も忘れない。

森の入り口、木々の間。
深い草むらの一角にそれはいた。





月のない夜の闇よりも深い暗闇が、のそりと立ち上がる。

何故だろう、恐怖よりも安らぎを感じるのは。

危険ではない。頭ではなく感覚でそう感じた。

一歩一歩近付いてゆく。

ねえ、『アンタ』は何?





木の根元に座り込み上体だけを起こしている『何か』は間違いなく人の形を取っていた。
漆黒は瞳、髪、そしてその身に纏う着衣。
青白く浮かび上がる相貌はあまりにも美しく、儚い男性のものだ。


「アンタ何?」


じっとこちらを伺っている二つの瞳。引き込まれそうだ。
一瞬だけ辛そうに眉を顰めるのが解る程食い入るように見つめていた。


「具合、悪いのか?大丈夫?」


何も答えない男に焦れて俺は彼の直ぐ側まで歩みを進めた。
側に両膝をついて額に触れる。
生気を感じない冷たさが掌にじわりと沁み込むようで驚いて少しだけ手を引いた。


「冷たい…。」
「君は………。」


始めて口を開いたその声は低く腰に響くようなテノール。
思わずびり、と全身が震えてしまい耳に額から放した手で触れた。

「怖くないのかい?」

何を言っているのか解らない。
確かに人間でないのは感覚で知っているが、敵意のない相手を恐れる程弱くは無いのだ。

「別に。アンタが凄く元気で殺気漲らせてるんだったらきっと腰抜かしてると思うよ?」

肩を窄めてそう言うと、漆黒の男は力なくクスリと笑った。

「ねえ、アンタ人間じゃないんだろ?なんでこんなに弱ってるんだ?」

「………。」

時々伝説や伝記などで継承されている人間外の者の話は、興味があって色々調べてみた時期がある。
彼らは俺達とは違い、永遠に近い命を持つという。
では何故?

理由はいくらでも考えつきはするのだが、どれに当てはまるのかが解らない。
せめて彼が何に属するものなのかさえ解れば…。


「捕食…してないのか?」


男は答えない。
ただ黙って俺を見つめていた。

「アンタらにだって食事は必要なんだろ?ねえ、何を食べるの?やっぱり人間?」

俺の物怖じしない口調に呆れたように溜息をつくと、男は少しだけ微笑んで冷え切った手を俺の頬に伸ばした。



「君は女の子なのだね。こんなに美しいのに男装だなどと勿体無い。」

「なんで…。」

「なんでって、私は吸血鬼だからね…解るさすぐに。」

「へぇ〜なるほど。」



感心したように頷き、決して身を引かない俺に男は一瞬目を見開いて頬に触れていた手で口元を覆う。


「君は…馬鹿か?」

「あぁ?んだとくぉるぁぁぁぁああ!!」


俺は猛烈な勢いで立ち上がり両手で男の胸倉を掴み上げた。
コンプレックスでもある低身長のためか、僅かに揺れただけで涼しい顔をされてしまった。


「くそ!てんめー小さいと思って馬鹿にしやがって!」

「いや、小さいのはこの場合問題にしてないぞ?」


やれやれ、と息をついて俺の両手を優しく剥がす。

「君は女性、私は吸血鬼…、そして私は君がさっき言った通り…ここ数百年捕食をしていないのだよ…。」

怖くないのかい?と首を傾げるから俺は素直に首を横に振った。
きょとんとした後、吸血鬼は声を立てて笑い始めた。そんなに面白いのか?



「なんでアンタは食事をしないんだ?」

「飽きたから…かな。というか血液を飲むという行為があまり好きではないのだ。」

「吸血鬼なのに?」

「君には嫌いな食べ物はないのかい?」

「牛乳。」



またしても声を出して笑う。
この男はモンスターであるくせに笑い上戸のようだ。
一通り笑いきった後、むくれる俺に「すまなかった。」と言って自分の座っている横をポンポンと叩いた。
座れの合図だと思い、腰をおろす。



「お腹は減らないの?」

「減ったよ。流石に、ね。」

「だから座り込んでたのか?」

「そうだ。もう少し時間はかかるがやっとこの空腹感ともおさらばできそうなんだ。」



苦しそうな顔に笑顔を貼り付けて、この吸血鬼は死を望んでいる。


「死にたいの?」

「長く生きたから、もういいんだ。」

「悲しむ人がいるだろ?」

「吸血鬼にそんなの居る訳が…。」


悲しむ人が居ない訳じゃない、そういう"間"だろ。
それでも死にたく成る程、長く辛い時間を過ごしてきたの?


「俺、アンタに死んで欲しくないなぁ…。」

「何を、さっき会ったばかりじゃないか…。」

「俺、両親死んじゃって弟と二人だけで旅をしてるんだ。」

「…君…いくつなんだ?」

「13歳。…弟は12だ。」


随分人間的な表情をする。
吸血鬼のくせに俺達を心配するの?


「心配してる顔だな。」

俺はくすくすと笑った。
男は再び口元を手で覆うと、情けない表情になった。


「例えアンタが人間じゃなくたって、目の前で自ら死を望むヤツに『はい、そうですか』って言える程俺は大人じゃないんだ。」

「君、何を言ってるんだ?」


俺はチュニックの紐を緩め襟を緩めると首筋を露にした。


「食事しろ。」

「馬鹿な事を…。」

「俺みたいなガキじゃ駄目ってか?」

「そういう事を言ってるのではない!」


苛立たしげに地面を叩く。
そんな事で俺は動じたりしないぜ?


「君には弟がいるのだろう?」

「あぁ、あそこの木で寝てる。」

「どうなるか解っているのか?」

「知るわけがないだろ、んな事ぁ。」


もしも死んでしまうのだったら、それは困るかもしれないな、などと漠然と考えた。
でも意思は変わらない。


「飲んだら死ぬ?」

「全部飲めばね。途中で止められるとは思えないのだよ。」

「なんで。」

「君は処女だ、そしてまだ幼い。さぞや甘美な味なのだろうと…私の本能が言っているからね。」


腕を組んで考える。アルの事とかこれからの事を色々。


「全部飲むな。」

「君ねぇ…。」

「エドワードだ…。」

「?」

「俺の名前はエドワード・エルリック。」

ずい、と男の双眸を覗き込む。
困ったように眉尻を下げ、吸血鬼は両手を挙げ肩を竦めた。

「君、私に名前を言えと?」

「何か問題があるのか?」

「大有りだ。私が名前を明かすという事は、君の虜になったという事だよ。」

「ふぅん…。じゃあいいや。」

「いやしかし…。」少し考えて吸血鬼は俺の顔をまじまじと見る。
手を伸ばしてきたからそのまま放置しておくと、俺の金色の髪を掬ったり、手からさらさらと落としたり、頬に触れたり…。


満足するまでやらせていたら、突然俺の目の前が暗闇に染まった。
唇に触れる柔らかい感触。それが唇だと気付いたのはぬろりと冷たい舌が俺の唇をなぞったから。

がばりと身を引くとさっきまで触れていた舌で先程晒したままにしておいた首筋を舐め上げた。

「――――――っ!!!!」

鳥肌が立ったぞ!
なんだ今の感覚は。

「くすぐってぇ!」

「とても甘いね、今までこんなに美味しい唇を味わった事がないよ。」

「そっ!そうだ、てめぇ今きっ、きっ、きっ…」

「永遠とも言える時間を私と共に生きる覚悟はあるかい?」

「え…。」

「私以外の吸血鬼は絶滅している。他種族の友人はいても…同属はいないのだ。」

「アンタ寂しかったのか?」

「寂しい?解らない………いや、そうなのかもしれない。」

「じゃあ、いいよ。ただ、アルが一人で生活できるようになるまでは一緒にいてやりたい。」

「連れてくるといい、君と一緒に。私も今すぐ君を同属とする気はないんだ。」

「どういう意味?」

「そうだね、人間の年であと2年待とうか。でないとその姿では私はがロリコンだと思われてしまうだろう?」

意味を咀嚼し、俺は再び怒りに震えたがぐっと堪えて言葉にはしない。


「私の屋敷に行くかい?エドワード。」

「屋敷?」

「そう、君と弟君と…ご招待しようじゃないか。退屈はしない筈だよ、
吸血鬼では無いが私の友人達が一緒に住んでいるからね。2年なんてすぐだ。」

俺はアルの寝ている方角を見る。

「じゃあ、アル起こしてくるから…待っててくれる?」

「勿論だ。ああ、でもその前に…。」


そう言葉を切って、吸血鬼は声を潜める。

「ロイ・マスタング。」

「ロイ?」

「そう、ロイ・マスタングだ。私の可愛い人。
ただ、ファーストネームは弟の前でも言ってはいけないよ?」


こくりと頷く。


ロイ…ロイ・マスタング…。
それは俺の虜となった男の名前。
先程まで一人ぼっちで死にたがりだった吸血鬼。


「ロイ。俺が死なない程度だ。」


俺はにっこり笑って首筋を差し出した。
ロイは辛そうに苦笑して、身を乗り出す。


「小悪魔だね、君は。…了承した。」


静かに唇を寄せる。
まるで消毒でもするようにぺろりと舐め上げられて、俺はぴくりと身体を揺らしてしまった。
腰に腕を回され抱き寄せられると、同時にちくりと痛みが走る。




「……っつ。」




余りにも背徳的で甘い、快楽にも似た脱力感。
音は無い、それでも時折目の前で上下するロイの喉仏だけが、彼が食事をしているのだという事を俺に教えてくれた。

そんなに長い時間ではなかったはずだ。
ロイは唇を一旦離すと、最初と同じようにもう一度牙を突き立てた場所を舌で辿る。

「終わった?」

「ああ…困ったねぇ…。」

「何が?」

「美味しすぎるんだ、君の血は。危うく全部飲み干してしまいそうになったよ。」

「馬鹿か。これからも飲むんだったら大事にしろボケ。」

「…そうだね。」

それだけ言うと孤独だった吸血鬼は嬉しそうに微笑んだ。


「荷物とアルだ、すぐ戻るからここにいろ?」

「ああ、もうすぐ朝だから急いでくれたまえ。」






俺は頷いて弟の寝ている木の下まで駆けていった。
アルは相変わらず夢の中。案外図太い神経を持っているから、これからの生活に支障はないだろう。

「アール!起きろー!!」

旅暮らしが長いせいか、俺程じゃないにせよ音に敏感だ。
すぐに目を覚ましたのだろう、荷物が上から落ちてきた。
俺のと、アルの。

すとんと着地したアルは周囲を見回ししぱしぱと瞬いた。


「兄さん…まだ夜じゃないか。」

「俺達これから人様の家にご厄介になるぞ!」

「はい?何突然馬鹿なこと…。」

「とりあえず荷物持て、ほら急げってば!」

「兄さん、訳を話してよぉ〜!」


走り出した俺の後ろから文句を言いながら渋々ついてくるアルフォンス。
勘の鋭い弟は、目前に広がる森の入り口に立つ漆黒の男に気付き、足を止めてしまった。

「あいつの家だ。」

「兄さん…あの人人間じゃないでしょう。解ってるの?」

「解ってるに決まってるだろ!ほら訳は後だ、急げって!!」

「もう、兄さんたら。」


駆け寄る小さな姉弟を微笑ましげに見つめる男はに敵意は一切感じられない。
少しだけ安心したのか、アルは彼をじっと見つめて迷うことなく近付いていった。


「はじめまして。エドワードの弟のアルフォンスです。」

「はじめまして、君はお姉さんに似ずとても礼儀正しいね。」

「あー?んだとぉ?」


ロイは俺の怒りを気にも留めずに空を見上げて両手を広げ、身に纏っていた長いマントで俺達姉弟をばさりと包み込んだ。



「さて、日が昇る前に行くとしようか。」






初めて経験する浮遊感、高揚感。
どこへ行くのかも解らないのに不思議と不安はない。
闇色の視界の中、隣にあるアルフォンスの温もりが、背中を抱くロイの大きな掌の感触が俺を眠りへと誘ってゆく。








ロイから香る甘い芳香が優しい夢を見せてくれた。
久方ぶりの魘されない夢。

俺はまだ知らなかった。
夢見る事すら出来ないほどの、これから始まる奇想天外極まりない生活を…。




END





これ続いたら怒りますか?(´ρ`)
いっそここで終了が潔くでBESTかしら。
てかもう連載増やすのやばいっすよね(苦笑)
本当はフリーSSにしようと思ったんですけどね、誰もこんなの欲しくないだろっつーパラレルになってしまったので断念ですよ orz

ご意見お待ちして…おりますっ!

pana 2005/10/26








(C)2005 Only 4u<Pana> All Rights Reserved