| 拍手御礼SS 『ケイン・フュリーの上司』 |
朝ベッドから降りた時、足元にあった雑誌で滑らせて頭をぶつけた。 軍靴を履こうとしたらあんなに丈夫なはずなのに、靴紐が切れた。 司令部までの道すがら何故か黒猫が9匹横切っていった。 結局昨日もサボって残業したらしい上司からまわってきた書類の山が全部僕のデスクに乗っていた。 コーヒーが熱すぎて口の中の皮が剥けたし、両親から誕生日に貰った万年筆の先が折れた。 何か嫌な予感がするんです。 「フュリー曹長、ちょっといいかしら?」 「あ、はい何でしょうか?」 ホークアイ中尉に呼び止められ、僕は新しいペンの指慣れなさに格闘していた頭を上げた。 「今日実は私が午後から半休を貰っているの。」 「そうなんですか。ゆっくり過ごしてきてくださいね。」 「ありがとう、それとね」 僕の嫌な予感って結構当たるかもしれない。 「ハボック少尉とファルマン准尉は昨日起こった事件の後片付けで一日いないわ。 そこでなんだけど、貴方に大佐の監視をお願いしていいかしら?」 嗚呼、そうきたか。 っていうかホークアイ中尉、有無を言わせない態度ってそういうの言うんじゃないんですか?(号泣) 「…え、っと大佐の監視…ですか?」 「そうよ。」 「ブレダ少尉のほうがいいのでは?」 「少尉より貴方が適任だと思ったのよ、頼むわね?」 鼻水も凍る恐怖の微笑。今壁に頭をぶつけたら間違いなく頭皮と髪が壁にもっていかれる(血まみれ)。 ああ!これ見よがしにホルスターを撫でてる…。 というか、僕には拒否権最初からないの判ってるくせに脅すのやめてくださいよー! 「そう、大佐の脱走は貴方では止められないと思うから絶対に目を離さないように缶詰にしちゃいましょう。 その間の曹長の書類なんかは私のデスクを使ってくれて構わないわ。」 「あはは…確かに…」 「あぁあとね、銃でもトラップでも何でも使っていいわよ。…逃がしたりなんかしたら…判ってますね?」 こうして僕は今日の午後いっぱい、大佐のお守り(ホークアイ中尉だとこういう表現になる)を任される事になった。 波乱の予感です! 12時を過ぎて予告どおりホークアイ中尉は帰宅した。 ブレダ少尉は鼻くそほじくりながら昨日の事件の報告書に追われている。 僕は何を用意していいか思いつかず、自分がこなさなければいけない書類を持って大佐の執務室の前に立った。 ノックをすると、いつもより機嫌の良い声。 「入れ。」 「ケイン・フュリー曹長入ります。」 いつも通りの執務室だ。 大佐の机の上には見決済の書類が山3つできている。 あれを僕がどうにかして今日中にやらせないといけないんだな…。 無理です(泣)。 仕方なく予備デスクの上に自分の書類を積む。 「曹長、その書類は何かね?」 「これは僕が今日中に上げるやつです。」 「ここでやるのかい?」 「はい、中尉にここでやるように言い付かってますが。」 「………。」 中尉の意図を察したのか剣呑な表情になる大佐。 うう、胃が痛い。 「そんな事をせんでもちゃんと仕事はするよ、君は遠慮なく司令室のほうでやりなさい。」 言うと思いました。 僕だってそうしたいですよ、アナタが信用できる人だったら!!! でも僕まだ死にたくないんです…。 「僕の事は置物だとでも思ってくださいっ!まだ命が惜しいんです。」 「上官命令でもか?」 「うっ…、今からホークアイ中尉に連絡を取って、こう言われている現状とどうすべきかを確認させてよろしいでしょうか…」 「そ、そこまでせんでいい。」 あ、勝った予感! 黙りこんで書類を始めてくれた、良かった中尉って凄い! この部屋で監視を始めて1時間が経った。 自分の書類は終わってしまったので大佐に目を遣ると、あれ?なんだか心ここにあらず? 心配になって書類の確認に立つ。 あ、手が動いてない! ちょっとまって! 今大佐の手元にある書類の署名…名前違うぞ? "エドワード・エルリック"? 「た、大佐っ!!!名前間違えてます!!!!」(←そういう問題じゃない) 「んあ?うお!…すまんついぼーっとしてしまった。」 他のもチェックしなきゃ、これはやばい。 てかなんでエドワード君?? うわ、5枚くらい失敗されてるよ…ってこれ失敗とかそういうんじゃないし! この部屋からは出られないから、仕方ないブレダ少尉にお願いして新しい書類を作って貰わなきゃな。 うう、落書きされてる…。 一枚目は…なんだこの絵…?へたくそでなんだか判らないよ! でも人間っぽいな、この点々は…ち、乳首っぽいしっ。 小学生みたいに全裸の絵とか描かないでくださいよ、やだもうこの人。 …なんか後ろに三つ編みらしきものがついてる気がするけど…。 二枚目…うわ、これアミダじゃないですか。 しっかり下折って隠して…って隠してあるところの最終地点「スキ・キライ・スキ・スキ・スキ」ってなんですか? 三枚目はなんだ? ………これラブレターの下書きじゃない? もう他の見るのヤダ。 「大佐!書類に落書きするのはやめてくださいよぉ!!(大泣)」 「あ、あぁすまないね。」 元来こういうことに疎い僕だけど、これは間違いないよね。 「好きな人でもできたんでしょうか?」 カッと見開かれた目、途端に耳まで真っ赤になって、指先をもじもじと弄び始めた。 なにこれ?なにこれなにこれなにこれ? 女には見境なく、百戦錬磨、1000人斬り、イチモツは突っ込み過ぎて真っ黒とか、流し目一つで女をイかせる事ができるって噂のロイ・マスタング大佐が、なんなんですかこの態度??? 僕は困惑しながら現実逃避気味に落書きされた書類の見ていなかった最後の一枚に目を落とした。 衝撃の真実。 紙びっしりと書かれた"エドワードLOVE"。 大佐…貴方は女子小学生ですか?おまじないとかしちゃうんですか? 消しゴムに名前書いて誰にも見つからないで使い切るとかもやってるんですかぁぁぁっ??? 神様、僕の上司が凄くキモイんです! 「エドワード君…ですよね?」 「!!!!何故それを!!」 「見れば判るじゃないですか!」 うは、茹蛸状態ってこういうの言うんですね…。 まさかマスタング大佐のこんな顔を拝むことになるなんて予想もしてませんでしたよ…。 「とにかく、これ以上書類に落書きはしないでください。」 「すまなかった…。」 このままで今日中に終わるんだろうか。 もし終わってなかったら僕の明日は命日?! 何かいい方法を考えなきゃ、まだ死にたくないよう…。 そ、そうだ!エドワード君といえばっ! 「た、大佐?」 「んぁー?」 (うあ、凄い無気力な声!) 「エドワード君可愛いですもんね♪」 「!…そ、そうだろう?そうなんだよ!!!世界で、いや全宇宙の中で一番可愛くて美しくて!いやー曹長、君の審美眼は最高だねぇ。」 (や、そこまで…) 「この間写真機の修理を頼まれた時に、たまたまいたエドワード君を被写体にして試し撮りしたんですよね…。」 「なんだと!!!!!!!」 ギャー!いやああああああ目が、目が怖いいいいいぃぃぃぃっ!!!! 見ないでください!みないでええええええええ!!! 「よこせ!それをネガごとよこせっ!!!嗚呼私のエドワードっ!!!!!!」 「ひぃぃぃー…」 膝がガクガクするぅ! くっ、まだだ、頑張れ僕! ネガと写真が僕の手にある限り大佐は僕を消し炭にはできないはずだ! 「た、たたたた大佐っ!…僕と『等価交換』してください…。」 「何?等価交換だと?」 「そうです。写真と交換で大佐はこの書類を今日中に終わらせる。勿論就業時間内でです。」 「…写真…だけか?」 (くそ、結構しっかりしてるな!) 「少し待っていて貰えますか?その価値があるものだとお見せしてからこの条件を考えてくださって結構ですよ。」 僕は内心いつ燃やされるかと心臓バクバクさせながら、扉に向かった。 そう、僕のデスクの中に置いてある写真を取りに行く為だ。 多分あの写真にはそれだけの価値がある。 ネガは自宅で現像したためにここにはないし、これはいつ来るか判らないエルリック兄弟にあげるために持っていたもの。 こんな事に使うのはどうかとも思うけど、背に腹は変えられない! ごめんね、エドワード君…。 再び執務室に戻ると、大佐が………どぎまぎしてた。(がっくし) 胸に手を当てて頬を染め、机の周りをうろうろうろうろ…。 僕に気付いたのか、目をキラキラさせて顔を向ける。 「み、みみみせてみろっ!」 「手は出さないでくださいね!」 「なんだと?手で持たなければちゃんと見られないじゃないか!」 「等価交換ですっ!」 「ちっ…」 僕は3m離れた場所に立ち、写真を手に持って大佐に向けた。 見えるはずです、だってバストショットだもの。 「鋼のぉぉぉっ!!!!!!!!」 あ…あ…目、目が…目が蕩けてるぅぅぅぅぅ!!! 隠さなきゃ!これを奪われたら等価交換どころじゃなくなるよぉ。 「あ!貴様隠すな!!!」 「だめです、大佐どうしますか?『等価交換』してくださいますかっ?!」 「先にそれを…っ」 「駄目です!」 「貴様消し炭になりたいか?」 「ネガは僕が持ってるんです!消し炭にしたら二度と手に入りませんよっ!」 「くっ…」 大佐は心底悔しそうに机に向かい、書類と格闘しはじめてくれた。 はぁぁぁっ 安堵の溜息くらい許してください。 だって上官相手になんでこんな恐ろしい真似しなきゃいけないんですか? ほ、本当に死ぬかとっ! 「ところで、フュリー曹長。」 書類から一切目を離さずに呼びかけられた。 「なんですか?」 「それ一枚だけかね?…は、鋼のの写真は…」 「いいえ、まだあります。」 「なんだと?」 「大佐が…こんなに書類溜めたのは大佐のせいだし本来ならやるのが当たり前なんです。 本当なら等価交換にするのも勿体無い、価値のある仕事じゃないですか?今なさっているのは。」 「………。」 「………。(ドキドクバクバク)」 「…ごもっともです。」 僕はこのたった数時間で、大佐を操縦する術を覚えた。 対価が必要な分、絶対にホークアイ中尉には適わないけど…。 その後、大佐はしっかり就業時間内に全ての書類を終わらせ、小躍りしながら写真を持って帰った。(ていうか本当に踊ってた) 大佐とエドワード君…、僕は絶対にこのままじゃ終わらないような確信めいた予感を胸に家路についたのだった。 二度と関わりあいたくないですっ!! END |
| 拍手ありがとうございます。 フュリー曹長むずかったっす。 軍部の皆さんも大好きなので、まだ書きたいけどこんなに難産じゃ考えちゃうなぁ(´・ω・`) さてまた次でお会いしましょう。 pana |