拍手御礼SS
『リザ・ホークアイの上司』





当方司令部の中で鋼の錬金術師と呼ばれる『少年』が本当は『少女』であると知っているのは私だけだった。
まさかあの無能上司ロイ・マスタングに知られてしまうとは、一生の不覚と言っても過言ではないわ。

史上最年少で国家錬金術師となった少女は錬金術に対しては勿論の事、体術にも長けていてその辺の兵士やごろつき程度では相手にならないし、共に旅をしている弟アルフォンスもほぼ対等に渡り合えるほどに強く常に姉の動向に気を配っていたから旅に完全に不安が無いと言ってしまえば嘘になるけど大丈夫だろうという確信はあった。
問題は別の場所にある。
エドワードは幼馴染にすら錬金術オタクと呼ばれる程に、愛する弟と錬金術以外のものに無頓着なのだ。
自分が性別を隠し旅をしているという事を忘れてしまう。と言うよりも女である事すら忘れてしまうらしく、ソレが原因になって大佐に性別がバレてしまったようなものなのだから。


あの女誑しで仕事をさぼる事にかけては無駄な才能を見せる無能上司の食指が彼女に向かわないことを切に思う。
不幸が目に見えている。誰よりも幸せになって欲しいのに。
まぁ、今まであの男が相手してきた女性達を見ていれば、まずエドワード君に惚れるなんて事にはならないだろうけども。
外見にも無頓着な少女が本当は素晴らしく見目麗しいという事に些か不安は残るのだけど、年齢差やまだ子供然とした体型を見ても真逆と言って過言ではない。



そんな事を考えながらいつも通りの職務をしていたその日の午後、突然突き付けられる恐るべき展開を誰が予測しただろうか。
天変地異の前触れのような、そんな光景が私の目の前に繰り広げられる。



『もしもし中尉?』
『エドワード君久しぶりね、元気だった?』
『勿論元気元気!明日のお昼の列車でイーストシティにつくから午後には報告書出しにそっち顔出す。』
「あら、やっと会えるのね?嬉しいわ、楽しみにしてる。大佐にも伝えておくから。」
『うん、お願いします。』
「じゃあまた明日ね。」
『また〜。』



報告書の提出に定期的に当方司令部に訪れる姉弟の事前の電話を受けるのは私の仕事。それを大佐に伝えて彼女らの報告書の提出が順調にできるようにより一層尻を叩いて仕事をさせるのだ。

「明日の午前中の列車でイーストシティに着くそうです。午後にはこちらにも顔を出すと言ってましたよ。」

事務的にそう告げた。
無論返事もいつも通りの事で、
「そうか…まぁ事前に連絡をよこしただけでも良しとしよう。」
と素っ気無く、かつ少々の嫌味の交じったものだった。

職務を促して執務室を後にした私が、始終俯きがちだった上司の姿をほとんど見ないままで言葉を流してしまっていたのがそもそもの間違いだったのかもしれない。







珍しく真剣に仕事に取り組んでいる大佐の出来上がっている書類をチェックしている時だった。


「中尉、ちょっと聞きたい事があるんだが…」
「はい、何でしょうか?ちなみにこの書類は今日中に提出な事に変わりはありません。」
「い、いやそうではなく…」


違和感を感じたのは、常に尊大(まぁ上司であるのだし、イザって時には有能な人なのでそこはどうでもいいんだけど)な態度を崩さない大佐が何やら戸惑いのような、恥じらいのようなとても微妙な空気を纏わせて発された声。
妙に真摯な表情で問うてくるから、私も思わず居住いを正してしまった。


「はっ、はっ…」
(何どもってるのよ、ハッキリ言いなさいよ無能!)
「は…鋼のはっ…」
(エドワード君?)
「………私みたいな男をどう思っているだろうかね……?」
「は?」

今何言いやがりましたか?
てか頬を赤らめないでくださいキモイんです!!
なっ!何捨てられた子犬みたいな顔して見上げてくるんですか?ゲロゲロ。(←酷)


「何を仰りたいのか判りかねますが?」
「あ…いやそのだね…だからその…」
(マスタングうぜー!はっきり言ってくださいっ!)
「私はっ…鋼のにこっこっこっ…」
「鶏ですか?」
「違うっ!恋をしてしまったんだっ!!」
「なんですって???」


あろうことか危惧していた事がこんなにすぐ…っ!
でも何か違う、この表情、この態度…何故、ポーカーフェイスで己の素顔を隠し若くして大佐という地位までのし上がってきたこの男がこんな顔をする?
なんだか嫌な予感がするわ。

「初恋かもしれない…。」
「は、はつこいっ?」

ぼそりと頬を紅潮させて言われた言葉を視覚が肯定してしまう。
なんで発火布指で摘んでもじもじしてるのよ、この男っ!

「中尉は鋼のやアルフォンス君と仲がいいじゃないか、慕われてるし…だからっ…君に相談するのがいいかと思ってだね…。」
「なるほど、良くわかりました。」

判りたくなかったですけどねっ!
いちいち語尾が聞き取り難いわ、ちゃんと喋って欲しい。

「それで、ご質問は『エドワード君は大佐の事どう同思っているか』でしたよね?」
「う…うむ。」
「彼女の言葉を引用して率直に言わせて頂くと…」

ごくりって唾飲み込む音まで聞こえてるわよ!

「『いけ好かない上司』『性格悪い、意地悪い』『女誑し最低』ってところでしょうか。」
「う、ぐぅ…」

凄いわ、凄い威力!こんなに凹ませられたこと過去に一度でもあったかしら。
ああ、なんて楽しいのかしら。

でもよく考えたらここで凹ませまくってこの後の仕事に差し支えるのも困るのよね。

実際の所さっき挙げたのは真実エドワードの口から出た言葉。
しかしながら、本当は結構好意を寄せている事を私は知っている。
ただそれは今現在、恋愛感情としては確立していないはず。努力次第でなんとでもなる範囲という事。

机に完全に突っ伏し撃沈状態の大佐。
これは本気と取っても良さそうね。
今まで本当の意味で他人を愛せなくなっていた彼がこんな風になるとは考えてもみなかったけれど、悪い事ではない。
ただ対象となっている女性が14歳"も"年下だっていうだけ。
倫理的にも法的にもどうかと思うけれどこれがきっかけになって『仕事に真面目になる』とか『女癖が改善される』とか今まで私が受けてきた迷惑な尻拭いの数々が減る可能性だって否めないのだから。


「大佐、そう落ち込まないでください。」
「だって中尉…私の印象にいいとこないじゃないか…」


だーかーらー!発火布で涙拭うんじゃない、雨も降ってないのに無能になるわっ!!!


「彼女はこんな事も言ってました。『大佐のお陰で俺達はここにいる。感謝してるよ。』と。」
「…本当かい?」
「えぇ、本当です。でも教えて差し上げたのは秘密にしてくださいね。」
「あぁ、あぁ!わかった!!ありがとう中尉…。」


首大丈夫ですか?って勢いで顔を上げた大佐は散歩に連れて行って貰える犬のようだった。
全くもって可愛げの無かった上司に少しだけ(本当にちょびっとだけ)愛情が沸いた瞬間である。
無論愛玩動物としてではあったけども。


「でも…」
「でも?」
「嫌われていないだけで恋愛感情は皆無に等しいと思いますので、後は大佐の努力次第かと思われます。」
「……う〜ん。まぁ完全に嫌われているよりいいさ。」
「では、早速ですがお話は終わったようですので彼女に嫌われないようにこの書類全て終わらせてくださいね。」
「ヨロコンデ…。」


なんだかエドワード君には申し訳ないけど、かなり使えるわねこのネタ。
彼女は恋愛感情に疎く、今は成し遂げるべき目標に向かって突き進んでいる真っ最中。
どちらに転んだとしてもまだまだ時間はかかりそう。
それなら存分に利用させて貰うしかないじゃないの。


「では、私はこの書類を提出して参りますので失礼いたします。」
「あぁ。よろしく頼む。」






ククク…。
大佐に背を向け扉に手をかけると思わず笑いが込み上げてしまう。
いけないわ、悟られないようにしなければ。










あら、私は黒くなんてないわよね?





END

拍手ありがとうございます!

ものっそい性格の悪そうなホークアイ女史を書いてしまいました。
でもホークアイ好き好き!エルリック兄弟の事は凄い可愛がってて、優しいお姉さんだと思います。
ほら、どうしてもこのシリーズ大佐を絡めるとこうなっちゃうんですよね。

お楽しみ頂けたら嬉しいです、また遊びに来てくださいね。

pana




無断転載禁止