| 拍手御礼連載小説 『ロイ・マスタング危機一髪』 |
黒から白へ、意識が浮上する。 眠っていたのだろうか? 薄っすらと慣らすように目を開くと目の前はキラキラと金色に輝いていた。 「たいさ!たいさっ大丈夫か?ふぇ…。」 目覚めた私に気が付き、目に一杯涙を溜めて横になっている私を覗き込んでいるのは最愛の少女、エドワード・エルリック。 状況を確認すべく、視線を走らせれば、どやら執務室のソファに無造作に寝かされていたらしい。 せめてハボックとかいたんだから仮眠室か医務室くらい運んでくれてもいいじゃないか…。 全く部下に愛されていて幸せだ(怒)。 突然首にぎゅうとしがみ付かれ、それが鋼のだと認識できるまで、数秒。 まだ頭はしっかり覚醒していないらしい。 「たいさ、痛くないか?大丈夫か?」 「あぁ、大丈夫だよ心配かけたね…鋼の。」 そろりと手を伸ばし優しく頬を撫ぜれば安心したように微笑んでくれて、やはり鋼のは涙もいいけど笑顔が最高!とか不謹慎な事を考えていた。 肘をついて上半身を起こすと、身体からずり落ちる布。 床に着く前にキャッチしてみたら、それは鋼のがいつも身につけている真紅のコートだった。 これは…嬉しいかもしれない。 気恥ずかしさに頬が紅潮する。 またどこかで隠れて見ているであろう部下共が馬鹿だの初恋だの言っているのかもしれないが、そんな事はどうでも良かった。 「かけてくれたのかね?」 「うん、あ、でも包帯巻いてくれたのは中尉だし、鼻栓してくれたのはアルだよ?」 包帯?鼻栓?………――――――――鼻栓?????? 私は手を額に当て包帯を確認し、そのまま手をおろして鼻に触れてみた。 うわぁ、凄い無造作に紙縒られたティッシュ…。 アルフォンスめ、こんな小さな事にまで怨念込めおってからに! 喋るたびにひらひらと揺れる鼻栓を引き抜き、来客用なのに普段はハボックくらいしか使わない灰皿に投げ捨てた。 さっきの顔を鋼のに見られたのか…私は…。 どーっと疲れが全身を駆け巡る。 ソファから足を下ろし、溜息をつきながら頭を抱え込むと、可愛い可愛い私の!鋼のが心配そうに覗き込んできた。 「たいさ?まだ具合悪いか?仮眠室戻ろう…俺添い寝してやっから!」 「え、いや…大丈夫だから!添い寝はまた今度にしよう!!」 「えー…たいさ温かくて気持ちいいのにー…。」 したいのは山々なんだ! しかし先程の状況を考えたらまた同じ事を繰り返す可能性がある。 この歳でパンツを汚すのはもうご免だ…。 後ろ髪引かれつつもなんとか鋼のを言いくるめ、私は再びソファに身体を沈めた。 貧血のためかまだ少し頭痛と眩暈がして目を閉じると優しく撫でる小さな温かい掌。 どうしてこの愛しい手は恋愛感情ではなく、私を犬として扱うのだろうか。 そんなに私は犬っぽいのか…。 確かに中尉にサボリを咎められている時などは、あまりの恐怖で竦みあがったりもするが、これでも若くして国軍大佐という地位まで上り詰めた男だぞ。 「たいさ、いいこいいこ。痛むか?ごめんな…。」 私は鋼のの聞いた事も無いような落ち込んだ声に驚いて目を開けた。 しゅーんと項垂れていて表情までは伺えないが、前髪と一緒に垂れ下がるトレードマークのアンテナまで心なしか切なそうに揺れている。 「鋼の?どうしてそんなに落ち込んでいるんだい?」 「だって…俺たいさの飼い主なのに…ちゃんと守ってあげられなかった…。こんなんじゃ飼い主失格だろ?」 「いや…それは…。」 「しかもやったのアルだし…。」 益々落ち込み、頭を下げる鋼のを見ているのが辛かった。 と言うか、やはりあの時の鎧の頭は見間違いじゃなかったんだな!アルフォンスっ!!(怒) きり、と唇を噛み目を瞑ってしまった彼女の頬に触れてみる。 「唇を噛むのはやめたまえ…。私は大丈夫だから。」 親指をそっと這わせれば、赤く少しだけ腫れてしまった唇が開放された。 あーキスしたい。この小さな可愛い唇を貪り尽くしたらさぞや気持ちいいだろうな! 「ほら、顔を上げて…。」 「たいさぁ…。」 鋼のは素直にこちらに顔を向け、くしゃりと表情を崩すと私の首に抱きついてきた。 もう本当に居ても立ってもいられない! 君は柔らかすぎるんだどこもかしこもっ! 膨張しそうになる欲望を、切なげに顰めた彼女の表情が押しとどめる。 私はどうすれば彼女が笑ってくれるのだろうかと必死で考えていた。 体重を私の上に預け、しがみ付く姿は歳相応。 しかし、感覚はズレまくっている彼女だ、何を持ってすれば機嫌を直してくれるのか。 こんな切ない表情をやめてくれるのか。 「たいさぁ、よしよし…。」 どんなに彼女を想い頭を悩ませた所で、私の後頭部を撫でる手はわしわしと本当に犬相手相応の力加減。 はぁ、と溜息をついて私は意を決し、そろりと鋼ののすべすべした薔薇色の頬へ舌を這わせた。 これはいつも笑顔で受けてくれていたからな。 「鋼の、大丈夫。大丈夫。」 「たいさ…、くすぐったい…。」 やはりと言うか…興奮してきてしまい、舐める範囲は少しずつ広がる。 忙しなく舌を動かし首筋から耳の裏まで舐め上げれば、小さく身体が揺れた。 肩を竦めてくすくすと笑う少女の表情は、それでも晴れてはくれなくて、私は両手を伸ばし背中と腰に手を添えて抱き締めてしまった。 「中尉達はどうしたね?」 「ん、出て行って貰った。………俺、アルの事怒っちゃった。」 なるほど、落ち込んでいる理由はそれか。 どんな状況下にあっても鋼のにとって一番大切な存在である、血を分けた弟。 時には厳しく、時には寄り添い合い、お互いを唯一、と無償の愛を捧げ合い旅をする二人にとって、おそらく今回の喧嘩はいつもと違う何かを伴っていたのであろう。 私と二人きりになど絶対する筈はないので、きっとどこかで会話を聞いているなり何なりしているとは思うのだが、今の鋼のにはそこまで頭を回せる余裕がないらしい。 「ねぇたいさ、俺今日たいさの家泊まりにいっていい?」 「…は?いや、ちょっと待ちなさい鋼の…突然何を…。」 聞こえた。執務室の扉の向こうから硬い何かが壁にぶつかる音。 銃のセイフティが外された音。私を狙ってるのか?狙撃?? それ以前に、冗談じゃないぞ鋼の!いくらなんでもこの現状で二人きり一つ屋根の下は私にとっても地獄でしかない!! 先程の比じゃない苦痛を伴う事は必須じゃないか! 「一緒にお風呂入ろう?俺わんこを風呂で洗ってやるの夢だったんだ。」 うは、嬉しいお申し出だが本当に待ってください!! 私は君と裸で風呂に入り、全身くまなく洗って貰った挙句に股間をバズーカにすることもできず悶々としていなければならないって事じゃないのか?! 扉の向こうから再びガタンガタンと激しく動揺しているのであろう物音が聞こえた。 「鋼の、私は保護者の許可なく、お年頃の少女を一人暮らしの男の家に泊まらせる程腐った人間ではないのだよ?」 「なんで飼い犬と一緒に寝るのに許可がいるんだ?それに保護者って後見人のたいさだろー?」 「なんだ、被後見人っていう自覚はあったのか…。じゃあ解るね?血の繋がらない、世間ではイケナイ大人で通っている一人暮らしの男の家にお年頃の女の子を泊める訳にはいかないよ?」 「大佐…犬じゃないのか?」 待て待て待て、私は犬じゃないぞ? というか、今そこを突っ込んでいられる程余裕が無い! 「それにだね、私は実は忙しくて…。」 多分私はかなり焦っていたのだろう。 訝しげな視線を送る鋼のをよそに、扉に目を遣り、銃を構えてそこにいるであろう部下を呼んだ。 「中尉、そこにいるかね?」 少しの間。 私の心情を察し、わざわざ妨害するであろう自分を呼んだ事に安心したのかセイフティを元に戻す小さな音が耳に入った。 「はっ、ここにおりますが…。」 「入れ。」 ガチャと扉が開き、背筋を伸ばしたホークアイがさも何も聞いてませんという顔で入ってくる。 「中尉、今日私は帰れそうかい?」 目で必死で訴えた! 頼む、妨害してくださいホークアイ中尉様!!! いっそ大嫌いな書類に追われて徹夜したほうがマシだ! 伊達に長年腹心の部下はしていない、彼女は気付かれない程度に小さく頷くと、口を開いた。 「いいえ、申し訳ありませんが大佐は今日お帰りになる事ができません。 今日一日全く執務をこなせていないだけでなく、今まで溜めた分、先程追加で上がってきた分の書類が司令室のほうに山積みにされております。今すぐお持ちいたしましょうか?」 「そ…そうか。」 実は鋼のが帰ってくると聞いてほとんどの書類を終わらせてあるので半分は嘘だ。だが本当に、ここぞとばかりに積まれるであろう書類の山の大きさを思い、頭を抱えたくなったが背に腹は変えられない。 相手が姉のように慕うホークアイであるためか、鋼のは残念そうに少し俯いた。 なんだか寂しそうなその姿に絆されそうになるのだが、そうはいくまい。 こんな時はホークアイの方が適任であると踏み、私は執務机に戻った。 とりあえず、と机の引き出しに入れてあったまだまだ先の書類を数枚取り出し、目を通すふりをする。 ホークアイに肩を抱かれ、ソファに腰掛けた鋼のの様子を伺うためだ。 開け放たれた扉の端に時々鎧の端が見え隠れするが、たった今私に疚しい事はない。 むしろ紳士的ですらあっただろう。 何かされる心配は無いのでそっとしておいてやった。 さて、鋼のが諦めて弟と仲直りし、宿屋に帰ってゆくのが早いか。 ホークアイが運んでくるであろう、書類を仕上げるのが早いか…。 視線を書類に落とし、小さく溜息をついて数分後、私は聞いてはいけない…いや、まずありえない展開と言葉に耳を疑った。 「負けたわ…。大佐、今夜はエドワード君をお願いします。」 なんだって??? END |
| まじで頑張れマスタング( =ω=) pana 2005/12/1 |
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