エド子長編にするつもりなかったのに長編。
Only For You,Only For Me act.3





表情を持たない鎧姿のアルフォンスだったが言葉尻や仕草から緊張感が伝わってきた。
流れる沈黙はおそらく言葉を選んでいるからだろう。


「大佐…。」
「何かね?」
「姉さんと付き合ってるんですよね…?」

中身は子供だと侮っていたが、その幼さ故のストレートな物言いに私は少々たじろいだ。


「あぁ、私はそのつもりだが…。」
「姉さんの事大切ですか?」
「無論、私の命など惜しくない程に愛しているつもりだ。」
「………。」


先程の接待を彼も見ていたのだろうか。
愚かな事に私は前々から私の知らないエドワードを沢山知っているこの弟に嫉妬していた。
肉親であれば当然の事、そんなことは判っているのに心のどこかでちりちりと煤けるようなそんな思い。
この会話がエドワードの為に成されているなら尚更、引く事はできない対抗意識みたいなものが鎌首をもたげている。


「姉さんを愛しているのに何故他の女性とデートするんでしょうか?」


汚れた大人に対する純粋な子供の疑問。
この程度の事ならいくらでも対応できると思っていたのに言葉に詰まる。

「僕達見ちゃったんです。今日大佐と綺麗な女の人がデートしてるの…。」
「ああ、私も君達を見たよ…君が走り去っていく所だったけどね。」
「大佐が見た姉さんは普通の顔してましたか?」
「気にもしてないような表情でそのまま行ってしまったよ。」

鎧の手がガチャと震え、拳を握り締めるアルフォンスからは焦燥感とも静かな怒りとも取れる空気が流れていた。

「あれは仕事の一環の接待だったんだがね、彼女にだけは見られたくなかったし、彼女の態度も正直ショックだった。怒られるか、泣かれるかと思っていたんだ。おかしいだろ?嫉妬してくれるんじゃないかってどこかで期待していたんだよ。」

「…貴方って人は…」

声色に怒りが滲んでいる。許せない、我慢できないと言っている。
この少年のそんな声も態度も私は知らない。

ふう、と呼吸していない身体で落ち着こうと音を発するアルフォンスは声を荒げるわけでもなく続けた。

「姉さんが貴方のデートを見てしまったのは今日だけではありません。」
「何?」

そんな筈は無い、だって今まで一度も咎められもしなければそんな素振りすら見せてはくれなかった。

「まさか…私は一度だって彼女からそんな…。」
「姉さんは何か考えがあって…それは何だか僕にも判らないけど、でも何かを我慢してて…。」


意味がわからない。私は心から愛情を注いできたはずだ。
言ってくれないだけで我侭はなんでも聞いてあげたいと、ずっと思っていたのに…。

「僕も今日初めて気がつきました。僕はあまりにも普通の素振りをする姉さんに酷い事を言った!」

くぐもりながら声が大きく響く。
アルフォンスは私を責めながら自分をも叱責しているようだった。







『んー、わからん。』
『わからんて…。悲しくないの?あんなの見て。』
『全然。』
『全然?姉さんどういう気持ちで付き合ってるのさ!不潔だよそういうの…。』
『不潔っておま…お前をそんな子に育てた覚えはないぞ!』
『姉さんだってこんなふしだらな子に育ててないよ僕はっ!』







あの時アルフォンスだけが先に走り去った原因を知った。

「私は彼女にとってその程度の人間だって事かい?」
「そう、思われますか?」
「ああ、あの時の表情とその会話だけ聞く限りは…。」

我慢できず膝に肘をついて身体を丸める。

「姉さんの中には何か考えがあって、そういう感情や気持ちを隠してる。」
「意味が、わからない。」
「そんな事姉さんに直接聞けばいい!」
「…そう、だな。」

頭が重い。自分の感情が酷く遠くにあるような、そんな感覚に囚われた。
彼女に直接聞かなければいけない事が山ほどある。


「大佐は姉さんを愛してますか?」
「さっきも言った、本当に真実彼女だけだ。愛してるのは彼女だけなんだ…。」


この世で唯一、心から愛してる。


「じゃあもう浮気はやめてください。これ以上姉さんを傷つけないで…。」


はっきりと、でも語尾は弱々しくアルフォンスの懇願は続く。姉の幸せを願う彼女の愛する足枷が。

「姉さんは貴方じゃなきゃあんなに寛いだりしないのに、貴方は姉さんじゃなくてもいいんですか?
姉さんを幸せにしてください、姉さんだけを見てあげてください、姉さんに…もうあんな顔させないで……。」

途切れた言葉の続きも姉の幸せを願うものだろう。
私の胸は『姉さん』と彼の口から紡がれる度に焼け爛れた鉄の棒を押し当てられたように声も出せない苦痛に苛まれた。


「姉さんはあの後、熱を出して倒れました。」
「なんだって…?」
「宿で寝ていると言ったのはそれが原因です。」
「そう…か。」

情けないと心から思った。
私の言葉は何一つ彼女に伝わっていなかった。
愛という言葉を使って彼女を抱き、傷を付け続けていた現実を思い知らされたから。

「アルフォンス、二つ聞きたい。」
「僕が答えられる事ならば。」
「君は…彼女が私を愛していると思うかい?」
「…多分、貴方が思っているよりもっとずっと深く。」
「そうか、ありがとう。」


こんな幼い少年に、ましてや彼女の弟に何を馬鹿なことを聞いているのか。
情けないを通り越して消えてしまいたい気分になった。
はぁと大きく息をついて、再び問う。


「もう一つ。」
「はい。」
「エドワードの看病に行っても?」
「…………姉さんを、お願いします。」


私はソファーが倒れるんじゃないかと思うほどの勢いで立ち上がり、コートを取りに行った。
袖を通すのももどかしく肩に羽織る。


「僕はここで皆さんのお手伝いをします。もしかしたら泊まるかもしれません。」
「すまない。」
「いいえ、僕は…謝るなら姉に…。」


一緒に部屋を出ようと立ち上がったアルフォンスに私は真っ直ぐ向かい合って言う。


「君のお姉さんは必ず幸せにする。君の血印に誓って。」
「はいっ!」


アルフォンスの血印は彼女が命を賭けて彼をこの世に繋ぎとめた深い愛情の証。
その証に誓いを立てよう。






彼女の心の中に閉じ込めたものを全て受け止め、私の愛を誠実なものにする事を。





/
くさい大佐。

pana








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