1周年記念フリー小説 愛の力コブ続編
恋する力コブ 後編





銀行を黒尽くめの男達が占拠した知らせを受け、出動したのは一個小隊のみだった。
最初に出動要請を受けたのはホークアイ中尉で、無論指示を出したのも彼女である。
その段階で銀行からの通報の他に、突入現場を見た街の住人からの情報も結構な数あって、だいたいの現状は把握されていた。
その時刻、この街であまりにも有名なあの男が、私服で銀行に入ってゆく姿までも。


「中尉、いっくら手馴れてなさそうな銀行強盗集団だからって、一個小隊だけってのはどうなんすか?」

「あら?問題あるかしら…これでも一応、あの無能の顔を立ててあげたつもりだったのだけど。」


いくら国家錬金術師とは言え、国軍大佐でもあるロイ・マスタングが人質にいるのにたったこれだけの人数では話題性にも欠ける救出劇になるだろう。
しかし、事実現在立て篭もっている強盗達は、あまりにも証拠や証言を残しすぎていて、所詮小物であるのは間違いない。
何も問題が無ければロイ一人でも事足りる程度なのだ。


「それに…。」

「……それに?」


ふと遠くを見てうっとりと微笑む中尉に、ハボックは言い知れない恐怖を感じた。


「今日はエドワード君が司令部に来るはずなのよ…またあの勇姿が見られるかと思ったら………大佐の腕の一本や二本どうって事無いと思わない?」

「や、中尉…いっくら大佐でも腕は二本しか無いっすから…。」


今のホークアイには何を言っても通じなそうだと、咥えていた煙草をひこりと揺らし、その大きな肩を落として見せた。

動く気配が全く無い現場。
いくらなんでも軍が周囲を取り囲んでしまうほどの時間があれば、犯行声明だとか、銃声だとか、人質の安否だとか、なんらかの行動を起こしていてもおかしくはないというのに、ただひたすら沈黙だけが流れていた。
距離を開けて伺っている野次馬でさえ、少人数ではあったが銃器類を持った軍人達の物々しい雰囲気に圧されて静かに傍観している。


その時だ。
艶やかなまでに鮮烈な空気が、声すら上げぬままに人々の波を割ったのは。
ざり、と石畳を踏み締め前だけを見据えるその姿。
赤いコートを翻し、その小さな子供は巨大な鎧を従えて真っ直ぐにホークアイの元へと足を進めた。


「エドワード君!」


喜色を浮かべるホークアイを手で制し、視線を建物へと向ける。
姉のその態度にアルフォンスは申し訳なさそうに小さく頭を下げた。


「中尉、挨拶は後だ。大佐は?」

「まだ中だぜ。」

「何か変わった事とかある?俺一人で突っ込んじゃっていいのか?」

「問題ないわ。」

「「中尉!?」」


興奮に頬を染め、エドワードの暴走をうっとりと促す上官に、ハボックと、漸く追いつき肩で息をしていたフュリーが声を揃えたが、ホークアイの一瞥で口を噤まざるおえなくなった。

その慌てぶりをどう捕らえたのか、ともすれば可愛らしいとも表現できてしまう小さな国家錬金術師は不敵に笑ってハボック達を振り仰いだ。


「安心して、大佐は必ず助け出してみせるよ。」

「あ、いや…それについて不安はな…「行く。」

「お願いするわね、エドワード君。」

「任せとけ。」

「聞いてくれよ俺の話もっ!」


両手に嵌めていた白い手袋を無造作に外しアルフォンスに押し付る。
建物へと一歩前に踏み出せば、それは一人で行くという明確な合図で、アルフォンスは小さく肩を竦めるとそれをぎゅっと胸元で抱きしめた。


「いってらっしゃい。無茶だけはしないでね?」

「覚えてたらな。」


鋼の右腕をポケットに突っ込み、風を切って正面入り口へと向かうエドワードの後姿に、ホークアイは熱い吐息を漏らす。


「エドワード君…素敵だわ…。」

「姉さんかっこいい…。」

「「……………。」」


こうして、銀行強盗の捕獲とロイ・マスタング大佐の救出に国家錬金術師が投入されたのである。

























全く持ってみっともない姿だ。
と、渦中の人、ロイ・マスタングは心の中で呟いた。

辱めるため、逃げる気を起こさせないため、と糞くだらない理由をつけて服を脱がされかけた私はなんとも中途半端の格好のまま、飽きたらしい強盗共に放置されていた。
無論腕は後ろ手に縛られ、足も拘束されている為直すことはかなわない。
半分だけ下ろされたファスナーと、全開にしたならせめて脱がせてほしいという程中途半端に上腕に纏わりついたワイシャツがまるでビニ本の犯されシュチュエーションの女優のようで情けない。

願わくば、愛するあの子が私を助けになど来ません様に、と必死で懇願することしかできなかった。


「………で、人質の解放はどうなっているのかね?」

「あぁ、忘れてた、すぐするよ。」


ホールの中央に集められている職員と客達は皆こぞって安堵の表情を浮かべる。
何人か随分と色めきだった目で私を見ているが………まぁ女性の視線だということにしておこう。
本当にコイツラにその気がなくて助かった。


大人しく開放を待つ人々を尻目に、窓辺まで行き外を伺っていた男が口を開く。


「なぁ、外もう囲まれてるんだけど。」

「なんだと?なのになんでこんなに静かなんだ!」

「……おい、アンタ本当に大佐なんだよな?」

「無論だ。この街の人間なら顔だけで解るだろう位は有名のつもりだが?」

「その割には…。」


人数少なくねぇか?
と、外を指差し数えている姿は、妙に私の心を掻き乱した。


「…32、33…目で見えてるだけで33人くらいしかいねぇ。」

「舐められたもんだな。」


一個小隊か…きっと指示したのはホークアイだろう。
ということは何か隠し玉があるとか、いやでももしかしたら私が発火布を持っていないのを知らずに私がなんとかすると思っているのか?

実際自分の直属の部下数名いれば、一個小隊も必要ないのは解っているのだが、それにしてもなんだかちょっと寂しいぞ。


「マスタングさんよぉ…アンタ嫌われてんのか?」

「なっ!失礼な貴様!!」

「だっていくらなんでもこの人数じゃ…「愛されてるんだ。」

「鋼の??」


突然響き渡った幼くも凛とした声に、その場にいた全員が大きく息を飲んだ。
あまりにも堂々と、ガラスの嵌った重厚な扉を両手で開き、正面切って入ってきた小さな子供に誰も気付けなかったのは何故だろう、と。


「なんだこの餓鬼!」

「外、いくらなんでも少ねぇよなぁ…でも、ほら俺が来ちゃったし。」


見るものを陶然とさせる微笑を浮かべ、一歩一歩前に進む彼女の美しさに、私は目を奪われていた。
同時に、何故一番来て欲しくないと思っていた君がここにいるのかと、我が身を振り返り羞恥心に青褪める。


「どういう意味だ…?何か仕掛けやがったか!」

「投入されたのは一個小隊だけじゃない。国家錬金術師1名追加だ。」

「国家錬金術師?!」


気色ばむ連中を尻目に、すっと視線をこちらに流し、その稀有な金色の瞳を大きく見開いた。
ああ、見られてしまった。
こんな情けない姿、誰をおいても君だけには見られたくなかったというのに。

俯いて唇をきゅっと噛み締める。


「……たい……さ?」


毛穴という毛穴から汗が噴出す。
それはこちらに向かって駆け寄ってくる少女から発せられた怒りに満ちたオーラのせいか。
殺気にも似たそれに驚き顔を上げると、眉根を寄せてきゅっと口を一文字に締めた彼女の切なげな表情が胸に響く。


「大佐…大丈夫か?何もされなかった?」

「…ああ、脱がされかけただけだよ。」


エドワードはコートを大きく翻して、脱ぎ捨てた。
途端、ふわりと私の視界を覆う彼女の心のように燃え上がる真紅。

私を隠すにはいささか小さすぎる着衣に、嗅ぎなれた甘い香りがして、私は目を瞑った。
きゅっとコートごと頭を抱きしめられる。

耳元で囁かれた声に、私はこくりと頷くことしかできなかった。


『俺以外の誰にも見せちゃ駄目だ。』







ふと温もりが離れる。
一歩、二歩と遠ざかるその足音。


「大佐の服脱がしたの誰だ?」


地を這うような怒りに震えた声。


「だ・れ・だ、って聞いてる。」

「そ、そんな事より餓鬼!国家錬金術師が投入されたってどういう事だ!」

「俺の質問にだけ答えてりゃあいいんだよ!!」

「外か?外にいるのか??」

「お前等馬鹿だな。」

「なっ!このチビ!!」


国家錬金術師という言葉に惑わされ、目の前の脅威に気付けない。
なんて愚かな事だろうかと、犯人達に憐憫とも呆れとも取れない感情を抱いた。

ああ、言ってはいけない言葉を…。


「言うに事欠いて、俺を豆より小さいマイクロドチビって言いやがったか!!!」

「そ、そこまで言ってねぇだろ!」

「いいかよーっく聞け?この俺が投入された国家錬金術師様だ!」


それは彼等にとっての死刑宣告に限りなく近い、いやむしろ死刑になったほうが幸せだったと思わせる程の恐怖の始まりを告げる言葉だった。

がんっ!と激しい衝撃音に釣られ、掛けられたコートを頭を揺らしてずらし、視界を開く。
そこには床に手を突いているエドワード。

しかし床には錬成された痕跡は一切なく………その握り締められた掌を中心にクレーター状に抉られていた。
今更目前に迫った危機に気付いても、もう遅いのだ。


「錬金術で死にたいか?それともこの手で死にたいか?選ばせてやるよ。」


俺って優しいよな、マジで。
嫣然と微笑みながら呟き、膝を折り曲げ重心を低くとった。
そこから先はほんの数分の出来事で、まるで野生の肉食獣のように華麗に舞うエドワードの姿をただただ見つめていた。

男達が全員伸され、漸くと発動させた錬金術によって一人残らず縛り上げられた後、ぱんぱんと手の埃を落とす仕草をしつつこちらに歩み寄る彼女は、先程までとは打って変わって、蕩けるような甘い表情で。
またしても胸がドキンと高鳴った。


ふと我に返り、私は慌てて赤いコートを深く被り直した。
エドワードは優しく私の頭を数回撫でると、後ろにまわって腕と足の拘束を解いてくれる。
ごそごそとファスナーを上げ、ベルトを締めたが、ワイシャツのボタンは引っ張られた時に弾け飛んでほとんどがどこかへ飛んでいってしまっていた。
別に犯された訳でもないというのに、愛する人の前では何時でも格好良くいたいなんていう一欠けらのプライド(先だってあったエドワード拉致事件の時に既に地に落ちている気もしなくもないが)すらズタズタで、顔を上げる事すら躊躇われた。
意味の成さない布切れに成り果てたワイシャツを、そっと腕から抜き取られ、コートを肩に掛け直される。


「大佐、歩けるか?」

「………。」


返事すらしない私をどう思ったのか、エドワードはそっと私の腿の下に手を潜り込ませ、またしても軽く抱き上げてしまった。
赤ちゃん抱っこ…か、今度は。
がくりと項垂れた私の気持ちなどお構いなしに、入ってきた入り口へと向かうエドワードは、膝下の腕だけで私を支え、もう片方の腕で身体を擦り、私の無事を確認している。
視線は前を向いたまま、安堵の笑みを浮かべた可愛らしいさくらんぼ色の唇。




「なぁ、例えばロイがあいつらに輪姦されてたとしたって、俺のロイへの愛は変わらないよ?」

「エディ…。」

「何も無かったなら良いじゃん、でももう俺に心配かけんなよな?」

「すまなかった。」


前回もそうだったが、今回も非常に恥ずかしい抱かれ方で、私は公衆の面前に立たされた訳で。
それでもエディの愛が私に真っ直ぐ向いている事がこの上なく嬉しくて、不安定な上半身をエドワードにぴったりと寄せ、背中を精一杯丸めて、汗でしっとりとした金色の髪に顔を埋めて一ヶ月ぶりの甘い香りを堪能したのだった。
























「うわー!兄さんかっこいい!!僕写真機買おうかな!なんか勿体無いと思いません、中尉?」

「安心してアルフォンス君。こんな事もあろうかと、フュリー曹長に頼んで持って来て貰ってるわ。」


すっと指差した方向には、既に何のためだか解らないといった表情でエドワードとロイにレンズを向けている曹長の姿があった。








/END
〜おまけ〜



またしても!またしてもシュチュエーションお願いして安荘様に描いて貰っちゃいましたよ!!ロイ(*´Д`)
エド子は失礼して私が描かせて頂きました。
まさにこんな感じ(笑)
嗚呼素敵ー(*´д`)
※この絵はフリーではないので、お持ち帰りの際は小説本文のみにしてくださいね♪

というわけで、少し時間が空いてしまったのですが、一周年記念フリー小説いかがでしたでしょうか?
調子こいて怪力エド子の続編でございます。
ロイが受けっぽいとかそういうのは無論想定範囲内の出来事ですので文句は受付ないのですよ!

どうぞこれからもOnly 4uとpanaをよろしくおねがいいたします♪

pana 2006/8/26








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