20万HIT記念集中連載06-7








ぐう。
恐ろしいほどの空腹に目を覚ましたエドワードはじょりっとした感触を頬に感じてぱちぱちと瞬きを繰り返した。

顔をずらすと目の前にはロイ頭…ではなく、足がある。


「………あ、れ?」

「お目覚めかい?」


何時もならば必ずベッドの下に落としてしまっている掛け布を直してくれるのはアルフォンスの役目で、全裸であるというのにぬくぬくと温かいのは、何度もロイが掛け直してくれたからだろう。


「ん…ぁ?大佐…の、あし?」

「……そのようだね。」

「〜〜〜〜っ!!!」


がばりと勢い良く身を起こせば、腰に走る鈍痛。
どこでも寝ることが出来るのは特技だが、寝起きが悪い訳ではないエドワードはきっちりと寝る前にした事と、たった今の状況を把握していた。

痛みに再びベッドに伏せた背中をロイの大きな掌が優しく撫でてくれる。
そろりと顔を上げれば、ロイはきちんとベッドヘッドに背を預けて座っていたようで、足に顔をつけて眠っていたということは…。


「俺…何回転した?」

「3回程度だよ。」

「…………。」

「大の字になったり丸まったりしながらベッドの上を縦横無尽に回転する君が可愛くて思わず見入ってしまった。」

「へ…ヘンタ…。」


顔を真っ赤に染めて悪たれをつく少女に、ロイはくすくすと笑った。
気になる事があるのか、熱い頬を生身の手で何度か擦る。


「どうかしたかい?」

「いや、何かじょりっとしたものが…。」

「そういえば私の足に頬を摺り寄せては顔を顰めるのを数分おきに繰り返していたね。」

「あ、し……………。」


頬を擦りながら考え込み、ふと眠っていた場所を見る。
だらりと伸ばされた筋肉質なロイの足。
そっと手で触れてみて。

じょり。


「ああ…すね毛…。」

「誰にでもあるだろう、そんなもの。」


なるほど、と納得しつつも感触が気になるのか、じょりじょりと掌で弄ぶ。
珍しそうにつまんだり引っ張ったりしているエドワードに、ロイはこっちへおいでと両手を差し伸べながら言った。


「俺にはねぇ。」


つるんと白い己の足にも触れてみて、ちょっと残念そうに溜息を吐く少女は、大人しくロイの手の中に収まり、尚名残惜しそうにすね毛に視線を送った。


「そんなに濃い方ではないんだが、気になるかい?」

「ん、いや全然。」

「じゃあどうしたのかね。」

「うーん、なんで俺には生えてこないのかなーと思ってさ。俺も立派なすね毛が欲しい!」

「………それはどうなんだろうか………。」


濃さには性別の違いや個人差もあるし、女性でも濃い人は多いよ。これから先に事は判らないけど期待しててもいいんじゃないかな?

適当に誤魔化したロイの言葉を真に受けて、エドワードは嬉しそうに笑い。


「よーし!立派なすね毛生やしてやるぜ!!」


すっぽんぽんのままで力強く拳を握り締め気合いを入れる。
鼻息も荒く未来展望(すね毛が生えてくる)を語る恋人を、幸せそうに見守りながらゆったりと時間を過ごす。

すね毛の役割について熱い論議を交わし始めた所で、エドワードの腹が再び可愛らしくくうと鳴った。

そういえば腹が減って目が覚めたのだと、ロイの腕の中を抜け出すと、ベッドを降りようとする恋人に、そっと床から自分が着ていたカッターシャツを取り上げ渡してやる。


「こっちの方が楽だからこれを羽織っているといいよ。」

「まぁ、そうだな。」


気持ち悪いくらいにこにこ笑うロイに疑問も抱かず、ベッドサイドに腰掛けてシャツだけ羽織る。
肩は落ち、袖からは指先すら出ないし、裾は機械鎧の付け根よりも下になって、エドワードは顔を顰め、それを狙って渡したロイは鼻の下をでろんと伸ばした。


「………これは厭味か?俺の好みのデザインに錬成し直せってことか?」

「ちょっ!君待ちたまえ!袖なんか折ってしまえばいいじゃないか、凄く可愛いのに!!」

「…可愛い?」

「これはね…男のロマンなんだよ…。」


自分の匂いが染み付いたシャツを恋人が身につける。
まるで自分の一部になったような気がするんだ。

あながち嘘ではない解説だが、多少端折られているのはエドワードを怒らせない為のロイなりの配慮だ。

ロイの言葉を受けて、照れてしまったのか頬を染めると、少女は腕を持ち上げ、くんくんと白いシャツの匂いを嗅いだ。


「そっか。そういえば俺も大佐に抱き締められてるような気分になるな…。」

「………。」


もう一度襲い掛かりたい衝動を遣り込めるのはこれで何度目だろうか。
眠っている間何度と無く掛け布を蹴り飛ばし肌蹴たエドワードは大の字になったり横を向いたり丸まったりと大忙しで、大胆に覗く秘部も乳房もキスマークも、ロイの股間を痛いほどに刺激しまくったのだ。
その辺の女であったら萎えてしまいそうな程の寝相の悪さも、彼女らしくて益々愛しさが募るばかり。
こっそり触れてみればしっとりと吸い付くような瑞々しい肌があって、空白の数時間は生涯ロイの中だけに仕舞い込まれる事だろう。
何があったか、何をいたしたかなど聞くだけ野暮というものだ。


「俺、ご飯作ってくる!大佐はもう少し休んでてくれよな。出来たら呼びに来るし。」

「ああ、楽しみにしているよ。」

「任せとけ!」


元気にぱたぱたと部屋を飛び出していったエドワードは先程までの痛みなど感じさせない程足取りも軽く。


「若さって凄いな…。」


と、感心もしきりに呟いてみて、自分の股間に視線を移し。


「いや、私もまだまだ捨てたもんじゃない…。」


頬を染めて大きな溜息を吐いたのだった。






旅暮らしが長いせいか、エドワードの料理は見た目こそ恐ろしく前衛的な物だったが、味付けも火の通りも素晴らしく美味しかった。
二人でキッチンに並び、皿を洗ったり拭いたりするのも楽しくて、ずっとこの時間が続けばとさえ思ってしまう程。


初めてのセックスは必要以上にエドワードの体力を削ったのだろう、ラグの上で身を寄せ合い、甘ったるい空気の中先日ロイから貰った文献について論議をしていると、寄りかかっていた重みが増し、エドワードはうとうとと眠り始めてしまった。


半ば強引に着せたワイシャツだったが元来そういったことに頓着しないエドワードはボタンを掛けるのを面倒がって上二つ開けたまま。
白い鎖骨に残る自分が残した所有印にくらりと眩暈しそうな程の陶酔感を得た。


ほう、と溜息を吐いてその痕を指先でなぞる。
くすぐったかったのか、うしし、と笑いながら肩を竦めるその身体のラインを抱き寄せるようにして何度も何度も撫でた。


少年だと思っていた少女の強引なアプローチから始まったこの恋が、ロイをどんどんと深みに堕としてゆく。

少女にとって最初の恋を最後の恋にする為にはどんな努力も厭わないだろうと思う。
今はきっと、自分の方が溺れているのだという確信すらあって。

ロイはエドワードから身を離し、そっと毛足の長いラグへ横たわらせた。
寝室のシーツを交換する為に、ゆっくりと立ち上がる。
ほんの少し離れるのも名残惜しい、こんな感情は初めてで。
明日には弟と二人旅立ってしまうこの恋人を笑顔で見送る事ができるのだろうか。

それでも、もっと先にある二人の未来の為に、こうして交わせた愛情をゆっくりと優しく育ててゆくのだ。


ロイは新品のシーツを袋から出してベッドメイクすると、破瓜の血が付着したシーツを持って寝室を後にする。


洗濯物が押し込まれたドレッサールームの棚の扉を開け、押し込む手をふと止めると。



「これ、取っといたら怒るだろうか………。」



呟きは空気に溶け。

シーツの行く末はロイのみぞ知るのである。








END




これで全部終了です!
長々とお付き合いありがとうございました!



2007/4/20 pana








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