20万HIT記念集中連載04-1







夕暮れがイーストシティの街並みをオレンジ色に染め上げている。
エドワードを探す為に司令部を飛び出したのは、まだ昼にもならぬ時間だったはずだ。
ロイは街を一望できる丘の上に佇み、上がる息を整えた。









エドワードが行きそうな場所は全て回った。
別の宿を取った可能性もあるため、途中で電話をして職権を振り翳し部下達にも捜索せた。
それでも少女が見つかったという知らせは来ない。

午前のほとんどと午後の全てを潰してしまった事をホークアイは間違いなく怒っているだろう。
それでも、今を逃してしまったら彼女は自分の前に二度と現れてはくれなくなってしまうような気がしたのだ。

必死だった。
日々デスクワークに追われ、鍛える事を怠ったりはしていなかったが中々どうして鈍った身体が悲鳴をあげている。
膝から下ががくがくと痙攣していて、軍服の中に着ているカッターは、搾れば滴るであろう程の汗を吸い込んでいて。
どれだけ盲目的に足を動かし続けたのかを物語っていた。


「…エディ…。」


そっと声に出してみる。
初めは半ば無理矢理に言わされた愛称だった。
男児につけるべき名前を与えられていたからだろうか、その性格は本来の繊細な愛らしさを持った容貌すら覆い隠すほどに男らしいもので、間抜けにも言われるまで少女であるなどとは気付けずにいた。

出会いはそんなに良い思い出ではないだろうに、ロイを好きだと直向に見詰める視線は、常に瞳の真ん中を射抜き続け、絆されたのか、最初から囚われていたのか。

好きだと気付けぬままに変わらず続けていた日頃の行いは少女の瞳にどう映っていたのだろう。

胸を痛めていたのだろう事は、アルフォンスやハボックの表情や言動からも窺い知れる。


相手は子供だからと高を括っていたから。
恋に恋をしただけなのだと、どこか馬鹿にした目で見ていたのだ。

少女に与えた全ての痛みは己に帰ってきたのだと知った。
だって今、こんなにも胸が痛い。


ロイは再び走り出す為に、上着のボタンに手を掛けた。
邪魔ではあったが、支給品である為に捨てる事もできず、左腕に持ったまま足を前に出す。


遠めに見ればなだらかなその丘は、走って上るには急勾配で、降りるときには勢いがつく。
ぽつんぽつんと点在している民家が、重厚な街並みに変化するのに然程の時間は掛からなかった。

比較的平和だと言われるイーストシティも、ご多分に漏れず、一本脇道に入っただけで、そこにいる人々の人相すら違う危険な区画がある。
まさかそこには行くまいとも思ったのだが、迷い込まないとは限らない。

いくらあの子が国家錬金術師で、腕に覚えがあるからといって、危機的状況に陥らない保障などどこにも無いのだ。



人通りの多い道を避けて走る。
高官位にあるロイには似つかわしくない場所だが、イーストシティの治安を守る為、サボリと称して街を出ては幾度と無く足を運んだ場所でもあった。

草臥れ果てた足に絡む泥除けすら、慣れているというのに忌々しく感じる程。
走って走って、そのまま突っ切ると思われたロイは、足を運ぶスピードを徐々に落としていった。


向かう先は袋小路。
薄汚れたそこには、誰が捨て置いたのかゴミの山が築き上げられている。

壁に向かい、背中を無防備に晒して、ロイは息を一つ吐き出すと軍服の胸ポケットから発火布を取り出した。


「ちょっと伺いたいのだが…この辺りで金色の小さな男の子を見掛けなかったかな?」


誰に向かって言っているのか。
正面には崩れかけたブロック塀があるだけ。
しかし、その気配は無防備の筈の背後から突然姿を現した。


「流石はロイ・マスタング。いつから気付いていやがった?」

「3ブロック手前位からかな。」

「…ちっ、最初からじゃねぇか。」


しれっと答えるロイに、いきり立った男は胸元から刃渡りの長いサバイバルナイフを取り出す。
向けられたままの背中をどう思ったのか。

ロイの口元が薄く笑みを刷いた事に気付きもせずに。


「まぁいいや、お前を倒せば拍がつくからな。」

「ふん、その程度の理由か。私が誰だか解っていてこの様な行動に出るとは、余程腕に自信があるか、頭が悪いかどっちかだとは思っていたが…。」

「何?貴様…大人しくしてりゃあ言いたい放題言いやがって…。殺してやる。」

「最初からそのつもりだったろうに。お前の殺気は解り安すぎる。度量も知れるというものだ。」


男は勢いに任せナイフを突き付けてきた。
特別な訓練など一切受けていないだろう、単純な動き。
ロイに掛かる影から、図体だけは大きいのが知れたが、ただそれだけだ。
一瞥もくれぬままにひらりと避けられ、瞬間できた隙を見逃して貰える程ロイは易しい人間ではない。

ナイフを握る腕を掴まれ、ぎりぎりと締め上げられる。
骨の軋む音に恐怖を感じ、激痛の走る掌の力を抜けばカランと音を立ててナイフが地面に落ちた。


「一人では無いだろうに…恐怖に竦んだか?貴様の友達は薄情だな。」

「…ぐ……ぅっ!」

「丁度探し物が見つからなくて苛々していた所なんだ。どうかね?発火布の威力でも味わってみるのは。」

「ひっ!」


初めて真正面から向かい合ったロイ・マスタングの夜の闇より深い漆黒の瞳に魂が悲鳴を上げる。
歴然とした力の差がそこにはあった。
掴まれているのは腕だけ、全身を拘束された訳でもないのに、反撃ひとつできない。
しかも掴み上げるロイは左手一本しか使っていなかった。

ゆっくりと目の前まで上がってくる右手の、薄暗い街角には目にも眩しい程の純白。
描かれた真紅の錬成陣が男の精神の奥底まで焼き付けられる。


がくんと腕に大きな負荷がかかり、ロイは右腕をゆっくりと下ろした。


「失神したら連行するのが大変ではないか…。」


揺すろうが地面に落とそうが目覚める事の無い、つい先程まで己の命を狙っていた男に一瞥をくれると、そのままその場を立ち去るべくさっとシャツの汚れを払った。
避ける瞬間地面に落とした上着を拾おうとした、その時。


「あれ…大佐?」

「……っ!!」


捜し求めていた少女の呆けたような声に、ロイは慌てて振り返る。

そこには別れた時と寸分違わぬ姿のエドワードがいた。





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明日もUPします。
なんか毎日告げてる気がするけど、これからもこの状態でずっと更新続けられるかといったらそうでもないのでご容赦くださいませ。(ちょっとは挽回できた?)


2007/4/10 pana








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