20万HIT記念集中連載02-2







ロイが公園の中にある公衆電話から軍部に連絡を入れ、戻って来るまでに然程時間は掛からなかった。
拘束している二人を見張る為に残ったエドワードは、そわそわと周囲を見回していて、その挙動不審な動きに益々苛立つ。
自分には事の経緯を話してはくれなかった事が拍車をかけているのだろう。
そんなに自分は頼りにならない上司なのだろうか?
しかし面と向かって「うん」と言われたら立ち直れないだろうと情けなくも思い、それ以上言葉も出せず二人はただ黙ってその場で佇んでいた。


エドワードがちらりとロイを流し見ると、相当不機嫌そうな表情をしていて、ただでさえ「鬱陶しい子供」扱いをされているのに益々嫌われたのではないかと胸が重くなった。
彼を愛しいと思っていない頃のエドワードであったら、間違いなく今回の不祥事をロイに直接言及していただろう。
それは所構わず、人目も憚らずに。
カルガモ親子の観察に熱中し過ぎて、己を付け狙うテロリストの存在にすら気付かなかった、それだけではない、これが大っぴらに問題になれば、職務中に執務を放棄して遊び歩いていた事実までもが明るみにされ、ロイの失脚を狙っている連中に格好の餌を与えてしまう事になるのだ。
だからこそ、今までロイの傍でありとあらゆる問題を対処してきたホークアイに委ねたいと思った。
ロイに直接言わないのは、彼のプライドを考えたからであって、信用していないのではない。
これ以上言及されたとしても、例え嫌われる事になったとしたってここでロイに全てを伝えるつもりは無かった。

怒りの為か、眉間に皺を寄せ池の上を見つめているロイにエドワードは足元に落ちている貰い物のクッキーを拾って声を掛ける。
せめて深く刻まれたその怒りの痕跡を無くせればと、そう思って。

「大佐…あの、これ。」

「………。」

ふと、声を掛けられエドワードに視線を投げれば、おずおずと両手を差し出していて。
その手の上には可愛らしいレースペーパーに乗った数枚のクッキーが見て取れる。
落ちたものを食えとでも言うのかと、これ見よがしに溜息を吐けば、ほんの少し傷ついた表情をしたのを見逃さなかった。

「これ、カモたちにあげよ?」

「カモ?」

「本当はこんなバターとか塩とか砂糖使ったもん、あげちゃいけねぇんだろうけど、きっと子供達も大移動で腹ペコだと思うんだ。」

上目遣いでこちらを見つめるエドワードはとても可愛らしく、不安に彩られた金色の瞳が潤んでいて、思わずまじまじと見つめてしまった。
ロイの返答を待っているのか、差し伸べられた手はそのまま、ちょこんと揃えられている。
最初の告白の時点で既に可愛げの無かった少女のいじらしい姿に、ほんのりと胸が熱くなるのを感じた。
拘束されている人間は意識も戻っておらず、ワイヤー状のロープはそう簡単には外れ無そうだ。
ロイは少し考えた後、こくりと一つ頷いて、エドワードの手からクッキーを一枚取ろうと手を伸ばした。

「このクッキーは誰かから貰ったんじゃないのか?勿体無い事をしたね。」

「いいよ、どうせ後で大佐と一緒に食おうと思ってたやつだし、こいつらがちゃんと味わってくれんだろ?」

いつも通りの口調で話し掛けられたせいか、肩から力を抜いてほにゃりと微笑むエドワードに、ロイは言葉を失った。
先程までの怒りはなりを潜め、打って変わったような愛しさがこみ上げてくる。

「あのな、これメインストリートにある古いパン屋さんあんだろ?あそこのおばちゃんがくれたんだぜ!いつもくれっけどすっげーうまいんだ!!」

「ほう、ステラさんの店かな?」

「そうそう!」

大きなジェスチャーを交えつつ、いかにおばさんの焼くパンが美味しくて大好きなのか、おばさんにしてもらった数々の優しいエピソードを衒いも無く語るエドワードを抱き締めたいと思ってしまったのは、庇護欲からだろうか。

手袋のままなのも気にせず、手の中で細かく砕いたクッキーをカルガモ親子に投げてやりながら、可愛らしいエドワードの言葉一つ一つに相槌をうってやった。

時間にしたら10分前後の遣り取り、エドワードの話は現場検証と犯人を連行する為にやって来た部下達の物々しい足音に途中で遮られてしまった。
もう少し遅く来ても良かったのに、などと、脱走した事もあって恐ろしいオーラ放って仁王立ちしているホークアイの前では口が裂けても言えない。

「大佐…お話は後でゆっくりとさせて頂きます。事の重大さはお解かりでいらっしゃいますか?」

「は…い。」

「では、もうお逃げになられませんよう。エドワード君いきましょうか?」

「うん。」

さっさと行ってしまおうとするエドワードに再び苛立ちが頭を擡げたが、去って行く小さな後姿がふと一瞬立ち止まり、名残惜しそうにこちらに視線を投げてよこした事で霧散してしまった。

もう逃げ出せぬようにとホークアイが手配した車に乗せられ、軍部まで戻る道すがら、ロイはエドワードに対して沸いた想いになんとか自分の都合の良い理屈をくっつけようと躍起になっていた。

ぶつぶつと独り言を言う上司に、運転する下仕官は不可思議な表情を見せていたが気付きもしない。

「す…いやいやいや、そんな馬鹿な。父性愛…そうだ!それに違いない!後見人とは言え保護者のいない彼らにとっては親同然だものな。」

ふふん、と自分で名づけた見当違いな感情の名前に一人納得し、満足げに笑う彼に訂正を入れられる人間はどここには一人もいなかった。




軍部へ戻ると、既にエドワードから事情を聞き終えたのかホークアイが執務室で待っていた。
大量の書類を仕分けしながら、事の詳細を掻い摘んで話す。
副官の口から語られた内容と差し出されたエドワードが書いたのであろう見慣れた字体の報告書にはほとんど相違点は見当たらなかった。
しかしどちらも、あまりにも短く細部まで詳細に書かれているとは言い難い、ロイを困惑させるには充分な内容で。

「………中尉、詳細が知りたい。鋼のをここへ。」

「エドワード君ならもう宿へ帰りましたが。」

「なんだと?」

「私が独断で帰しました。とても疲れているように見えましたので。」

普段のホークアイならば絶対にしない判断にロイが不信感を抱くのは最初から解っていた。
それでも感情が顔に出てしまいきっとボロが出るから帰らせてくれと懇願した、エドワードの心情に頷いてあげる以外何ができただろうか。
無能のようで有能なこの男を騙し通すことなどできる筈もない。
それならばあの少女の想いをロイに無碍に切り捨てられないように口添えしてあげたかったのだ。
エドワードのストレートな感情表現の中には、奥に潜められた繊細な想いは含まれない。
不器用な子供を不用意な言葉で傷付けさせたくは無かった。

案の定ロイは苛立ちを前面に押し出して言葉を発している。
まるで蚊帳の外のような扱いに、それは当然のもので、ましてや彼は実質上この東方を取り纏める最高司令官なのだ。

「もう一度司令部へ呼び戻せ。」

「お断り致します。」

「何故だ!君は上官命令に逆らおうというのか?これは軍命だぞ。」

「呼び戻してエドワード君をどうなさるおつもりなのですか?」

無表情を貫き、物怖じしない冷静な口調のまま、ホークアイは言葉を繋げた。

「大佐が職務を怠り執務室を脱走したのは存じております。」

「……!」

忘れているのだろうと高を括っていた己の落ち度を振られ、ぴくりと肩を揺らす。
しかしここで折れては沽券にも関わると、そのまま対峙しようとした矢先、続けられた言葉に耳を疑った。

「エドワード君が『自分が無理矢理誘った』のだと言い張るからその気持ちを尊重して言わなかっただけです。」
「…はっ、訳が解らんよ。」
「その報告書が曖昧なのは、何か要因があるのだとは思われませんか?」

声色は淡々と耳に届き、形を形成する。
思えば自分の落ち度など両手の指では足りないほどあったのだ。
すぐにバレるような稚拙な方法で己を庇おうとするエドワード。
それならばきっと報告書に綴られていない部分も同じ思惑が働いているのだろうと漸く気付いた。
しかし知らぬままで良いのかと言えばそれはあまりにも職務怠慢で、確認のサインを入れて中央に提出するには報告書の内容が不透明過ぎる。
ロイは自分でも気付いていない何らかの落ち度でこの様な事態になったのだとしたら、自分自身の為にもそれを知っておかなければならないと思った。

「お解かりになられましたか?」

「あ…ぁ。解った、大丈夫だから鋼のをもう一度ここへ呼び戻してくれ。」

「了解いたしました。」

軽く敬礼をしてホークアイは執務室を後にした。
一人きりになった部屋の中で、ロイはがっくりと肩を落とす。

あんな小さな子供に庇われるなどと、情けない事この上ない。
何よりエドワードが自分に向けてくる純粋な想いは、稚拙で器用さの欠片も無く、ただ真っ直ぐで…。
ロイはエドワードが呼び戻され、詳細な説明を聞くことで自分の心が今より一層大きく揺さぶられるなどと、この時はまだ思ってもみなかった。


ホークアイが部屋を辞してから30分程経ち、漸く執務室の扉がノックされた。
鋼の錬金術師が戻った報告かと入室を促せば、ひょっこりと顔を出したのは煙草を咥えたままへらへらと笑うハボックのみで、早口で捲し立てられた内容にロイはガタンと音を立てて立ち上がった。

「何かあったのか?」

「いや、別に怪我とかはしてないっすけど…行きたくないの一点張りで…。」

「で、今何処に?」

「司令部までは何とか引っ張って来たんですが…。怒らないでやって貰えます?」

エルリック姉弟を大切に想い、甘やかす傾向のある部下達の一様の行動にやれやれと手を振って先を促す。
ハボックがおずおずと口にしたのは左官以上か国家錬金術師のみ入室を許された資料室の一つだった。

「あそこに逃げ込まれちゃ俺ら手出しできませんから。」

「成る程、私が直々に来る事は無いと思ったんだな。」

「でしょうね。」

「行こう。」

「は?大佐自らですか?」

「何か問題でもあるのか?」

一瞥するロイにぶんぶんと首を振り、ハボックは信じられないものを見るような目をして小さく否定の意を唱えるとのそのそと退室していった。









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また続いてしもうたorz
次でこのお題は終わります。
少しだけ原稿に時間を頂く予定です、ごめんなさいorz

2007/1/27 pana








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