| 20万HIT記念集中連載02-1 |
鋼の錬金術師が少女であると発覚し、大佐を自分に惚れさせると鼻息も荒く息巻いたあの日から丁度一ヶ月が経ち、再び旅に出ていたエルリック姉弟はイーストシティに戻って来ていた。 あまりにもあっさりと旅に出てしまったせいで、そんなに深い想いではないのだろうな、なんて高を括っていたロイ・マスタング(国軍大佐27歳独身)は、今日も今日とて机の上の膨大な書類に見切りをつけて窓から脱走し、視察と称して街を巡回する。 かれこれ6人の女性と甘い会話を楽しみ、中央通り3ブロックの道の舗装が崩れているのを頭に留め、重い荷で困っている老婦人に手を貸した。 興味を誘うものには素直に目を奪われ、何時間でも観察してしまうのは錬金術師の性か。 本日のターゲットはイーストシティ自然公園の池でたまたま見つけてしまったカルガモの親子である。 てとてとてと。 必死で親に並んでついてゆく、たどたどしい足どりの子ガモは7羽で、ふわふわでもこもこの産毛に包まれ大変可愛らしい。 遅れをとる子を立ち止まり待つ姿は、人間と遜色無く愛情に溢れていて胸が温かくもなった。 公園内には二箇所の人工池があり、どうやら西側の池に引っ越そうとしているらしい。 ロイは溝や段差や人間の子供や、ゆっくりと、でも確実に家族全員で障害を越えて進んでゆく姿を、付かず離れず見守り続けた。 一時間程で戻る筈が、司令部を抜け出してからかれこれ3時間は経過しているというのに、気にした風もない。 漸くカルガモ親子が西の池に到着する頃にはすっかり日は傾き始めていた。 母ガモに続いて小さな綿毛の塊ような子供達が池に飛び込みぷかぷかと浮かぶ。 ロイはふむ、と顎に指を添えると、どうしても気になって堪らなくなった疑問に挑む為に水面ぎりぎりまで頬を寄せた。 水面下ではどんな動きをしているのだろうか…。 ぽっちゃん。 慎重さとは無縁な動きは当たり前のように顔半分を水没させる。 「はっ!いかん、頬と髪が濡れてしまった…。」 慌てて頭を上げても後の祭りで、顔と髪からぼたりぼたりと水が滴り落ちた。 ポケットからハンカチを取り出し拭こうとするも、どうやら今日は忘れてきてしまったらしく入っていない。 ロイは仕方なく水を弾き飛ばす為にぶるぶると頭を振った。 その頃、ロイの後方10mの場所に、息を潜めその姿をじっと見詰めている小さな影があった。 両手を握り締め、送る熱い視線に気付かない国軍大佐ロイ・マスタング。 エドワードは愛しいこの男の一挙手一投足に自分がイーストにいない間どうやって身を護っているのか不安で不安で堪らなくなっていた。 逃走するロイを見つけたのは、ロイが執務室の窓から飛び出した瞬間からだ。 目撃したのは本当に偶然だったのだが、どうせこのまま執務室へ向かったとしても報告書を渡さなければいけない当人がいないのならば仕方ない。 もしかしたらまた可愛い姿でも見せてくれるのではないだろうかという期待を込めて、行動を共にしていたアルフォンスを先に司令部に向かわせ、ロイの後を追いかけたのだった。 可愛いどころか非常に胡散臭い笑顔を浮かべ散々道行く女性達を誑し込んでいる。 苛立ち、見なければ良かったと目を背けようとすると、また歩き出しては老女に優しく手を貸したりしているのだ。 結局目を離すことも出来ず、後ろをついて歩いた。 腐っても大佐職にある男、見つかってしまうだろうという懸念は、一切気付く気配も無いので途中で捨てた。 それならばと周囲に目を配りロイの身辺警護も兼ねる事に勝手に決めた。 もしかしたら今日は厄日なのかもしれない。 公園に到着するちょっとの間だけで、エドワードはロイを付狙うテロリスト風情の男を二人倒していた。 まさか放置する訳にもいかず、がっちりと拘束をして引き摺り歩く。(この時点でエドがロイよりも目立っているというのは気付いてすらいない) 公園ではまさか匍匐前進でカモの親子を尾行する、この街で一番有名な男を一般人に見せるのは駄目だろうと、八方手を尽くして人払いをした。 そんなこんなで、現在エドワードはまさに満身創痍、ただ目の前にある可愛らしい中年男への愛だけで、木陰に身を隠している状態なのだ。 あんな一生懸命カモの観察しちまって…。 「嗚呼ぎゅっとしてぇ…!」 思わず口から零れた一言に、漸くロイは水面から顔を上げ、エドワードのいる方向に顔を向ける。 もう濡れてしまったのだからいいか、位の勢いで池のほとりでばちゃばちゃと水中を覗き込んでいたので、すっかり軍服の肩から背中にかけてがずぶ濡れで、風邪でも引いてしまうのではないかと心配になった。 「誰だ!」 素早い動きで胸ポケットに入っている発火布を装着する。 目を鋭く眇め、姿の見えぬ敵に指先を掲げる姿は溜息が出るほど格好いい。 格好良いのだが…。 エドワードは溜息を一つ吐いて草を踏みしめ、木陰から一歩前へ進み出た。 「気付くの遅ぇし、だいたいその発火布濡れてて使い物になんねぇだろ。相変わらず可愛いなぁ…大佐大好きだ。」 「はがっ…じゃなかった…エディ!?」 「おう。」 カルガモの子供さながらの足取りでてとてとと近づいて来る小さな少女に、今までの行動を全部見られていたのだろうかと思うと気が気で無い。 何とか濡れた髪だけでも隠せないものかと右手で前髪をかき上げて後ろに撫で付けてみた。 「大佐、風邪引くから拭けよ。」 「あ、いや…。」 「ハンカチ忘れたんだろ?ちょっと待ってろな。」 赤いジャケットのポケットに手を突っ込み、ごそごそと探りを入れている。 子供のイメージ通り雑然と色々なものが詰め込まれたそこから望みの物を見つけたのか、手を引き出そうとした瞬間に可愛らしいレースペーパーに包まれた手作りクッキーが零れ落ちた。 軽く止めてあっただけなのだろう、口が開き中から数枚飛び出して地面に散らばり、エドワードは少し残念そうな視線を送ったが、気を取り直し、今度は勢い良く何かを取り出すと、そっとロイの頬に寄せた。 小さく畳まれたピンク色のハンカチは子供らしい猫の柄がついていて、普段の勢いとのギャップが妙な笑いを誘う。 どんなに男らしく振舞っていてもやはり女の子なのだな、なんて安心すらした。 いけないと思いつつもぷっとロイが吹き出すと、エドワードは悔しそうに唇を突き出して、忌々しげに口を開く。 「アルが選ぶんだよ…。」 「ほお。しかし君も何だかんだと使っているのだろう?」 「うるせえよ、カルガモ親子と一緒に匍匐前進してた軍人に言われたくねぇ!とにかく拭かねぇと風邪引いちまうぞ。」 「うっ…。君、どこから見てたんだね…気配を消すのはやめたまえと…。」 「いいから頭貸せ、ほら。」 羞恥に頬を染める大人を宥めすかして、ハンカチで水気を吸い取ってゆく。 言葉とは相反して、あまりにも優しいその触れ方にロイはうっとりと目を瞑った。 「ごしごしすっからな?」 「うん。」 広げたハンカチを頭に乗せ、両手で短い黒髪を掻き混ぜる。 わしわしと勢い良くやられている割には、引っ張られる事も引っ掻かれる事も無く、やはりとても心地よいものだった。 弟が生身であった頃には良く面倒を見る優しい姉だったのだろう。 「どうした?黙り込んで。」 「いや………君の手は優しいなと…思ってね。」 「え、何?惚れてくれた?」 「あ、いやそれは無いんだがっ!!」 「そんな力一杯否定しなくてもいいじゃねぇか…ひでぇなぁ。」 切なげに眉を顰め、それでも精一杯元気に笑ってみせるエドワードに胸がきゅんと痛む。 むくれたポーズも表情もロイに気負わせぬためのものであると、そんな気遣いのできる子なのだと知っているからそれは尚の事。 「どうすんの?もう帰る?それとももう少し観察する?」 「エディ…一緒に観察しないかね?結構不思議がいっぱいなんだよ。」 「………いや、いいよ。俺今日はここから見てるから。」 「そうかい?」 それは残念だ、と口に出そうとして押し留める。 何が残念だというのだ? だってこないだは一緒に蟻の巣の観察をしたじゃないか。 凄く楽しかったし、充実した時間だった。 何故この間は良くて今回はいけないんだ。 君は私に惚れて欲しいんじゃないのかね? そこまで考えて初めてロイは自分が拗ねているのだと気が付いた。 「………。」 多くの場合、これ以上深く掘り下げると自分に不利な方向へ進む傾向がある事を知っている小ずるい大人であるロイはそれを思考の片隅へ追い遣り、自分の好きな事をしようと心に決めた。 「ん?」 「なに?」 「それはなんだね?」 ふと見ればエドワードの足元に何かが転がっている事に気付く。 尋ねると気まずそうに視線を逸らされ、苛立ちは一層募った。 近づいて確認しようと一歩前に踏み出す。 「や、何でもねぇから!気にしないで観察続けろって、な?」 「そうやって隠されると益々興味が沸くじゃないか。」 「馬鹿、見るなって!」 小さな身体を張って、両手を広げ立ち塞がるエドワードを押し退け、謎の物体が見え隠れする草むらを覗き込む。 胸より少し下の位置から舌打ちが聞こえたが気にしない。 「これ、は?」 「………。」 そこに転がっていたのは大の大人の男二人だった。 人相風体に見覚えがあるということは、指名手配にでも回っているのだろう。 無能と部下にからかわれつつも見えない場所ではきっちりと仕事をこなしているロイは、セントラルから送られて来た書類にはどんな些細なものにでも目を通していて、記憶力にも自信はある。 「これは…反政府ゲリラの残党じゃないか?」 「あ、そうなの?」 あまりにもあっけらかんと返され、身の内に蟠っていた苛々がピークを迎える。 ぶちりと血管が切れた音が聞こえた気すらした。 「君はまた一人で無茶をしたのか!いい加減にしたまえ!!」 「………なんだと?」 怒鳴りつけてみたものの、キレ出すかと思ったエドワードの反応はあまりにも予想を超えて落ち着いたものだった。 というよりは、逆ギレされてる? 「てめぇ…いっそそこまで無能だと可愛げがねぇぞ。」 「可愛げなど無くて結構だ。」 切って捨てるように言い放つと、エドワードの表情が一瞬泣きそうに歪んだ気がした。 まさかと思い改めて見てもそんな雰囲気など一切なく、やはり気のせいだったのだと、思いなおす。 「何があった?全て話せ。」 「………俺が歩いてたらたまたま悪そうな奴らがいたから……伸した。そんだけ。」 「嘘を吐くんじゃない。」 人相が悪いというだけでエドワードが見知らぬ他人を攻撃するなんてあるはずがない。 軍という特殊な機関に身を置いているエドワードは、見るからに悪そうな顔だったり、雰囲気を持った軍人を数多く知っている。 見かけによらず気が良い彼らにとても懐いていたし、可愛がられてもいて、人は見かけによらないのだとエドワード自身が軍属になって少し経った頃に言っていたほどなのだ。 「嘘じゃない…。」 「嘘だ。君は人相が悪いというだけで他人に危害を加えるような子ではないよ。」 「嘘……じゃないもん。」 最後の否定は消え入りそうな声で、エドワードが本気で何かを隠したがっているのだと気がつく。 ロイはふう、と一つ溜息を吐き、諦めたように肩の力を抜いた。 「本当の事を言えないのは私にだからかい?」 「ちが…うけど。」 「じゃあ言える事だけで構わん、質問に答えたまえ。」 エドワードは言葉にはせず首を縦に振った。 ロイが仕事をサボって街に出ていただけでなく、間抜けにも命を狙われている事にすら気付かずにいた。 こんな醜聞、きっとホークアイだったらば揉み消してくれると思ったのだ。 ただこの男のプライドを壊したくないだけのために口を噤む。 「こいつらを倒したのはここか?」 「違う…街中。」 「二人一緒に?」 「別々。」 「どうやってここまで…。」 「倒した後引きずってきた。」 「………。」 そういえば転がっている二人から二本の道ができている。 草を踏み、土を掘り起こし散々引き摺り回されたのだろう服は所々擦り剥けて裂け、ちょっと血が滲んでいたりもした。 歩きながら手頃な何かで錬成したのだろうか、拘束しているロープらしきものもロープと言うよりは硬いワイヤーのようで、痛々しく食い込む様に同情すら禁じえなかった。相当切羽詰っていたのだろうか。 臨機応変な子だというのに。 「あとは…。」 戸惑いを滲ませ、小さな声で喋る少女にロイはじっとその姿を見る。 「あとは中尉に話す。」 「………解った。呼んで来るとしよう。」 声を荒げそうになる自分に辟易し、公衆電話に向かう為踵を返した。 02-1 Next |
お題提供元様→![]() 大佐が泣けるほど無能なんですが、なんとか今回はかっこよく立ち回らせる話も入れたいと思っております。 てかここからの浮上は可能なんだろうか(笑) しかも続いちゃったし!長すぎんだよorz 2006.12.25 pana 随分眠かったようで、多少書き直してますorz 2006/12/26 pana |
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