ロイ(軍部)×エド子短編
彼女な理由





鋼の錬金術師、エドワード・エルリック。
少年の姿に身を窶し、魂を定着させた空洞の鎧の肉体を持つ弟と、自分自身の失った右手左足を取り戻すために、いつ終わるとも知れない旅を続けている小さな子供。



実は大変見目麗しい美少女であるとか、通りすがりの人でも困っていれば見捨てる事などできない心優しい所があるとか、そういった要素を粗野でガサツな態度で綺麗に覆い隠している。
お陰で洞察力(とくに女性に対する)には自信のあった私がまんまと2年も騙されていた。









執務室からでも聞こえる、軍部という場所に似つかわしくない子供の声。
よく笑い、よく怒り、部下達にも可愛がられている。

それにしても…。

「うるさいぞお前ら!!!」

バン!と大きな音を立てて扉を開ける。
怒りの形相を隠しもせず声の元凶を睨み据えれば、飄々とした顔をして「よっ!久しぶり♪」とか口にするから危うく血管が1〜2本切れたかと思った。



ぬっと大きな鎧が元凶と私の間に立ち塞がり、申し訳なさそうに頭を下げる。

「すいません大佐!兄さん何その態度っ!」
「おーわりぃわりぃ。」

ケラケラと笑いながら左手を挙げて振る鋼のは、完全に私を馬鹿にしているようにしか見えなかった。



「…ん?」



まだ何か言うつもりなのかと少年に目を遣れば、打って変わって真剣な眼差しで私の事を食い入るように見つめている。



「どうした、鋼の?」

顔に何かついているのかと思い、顎を摩ってみるがちゃんと髭も剃ってあるし米粒もついていない。
もしや鼻水でも?と鼻の下まで確認してしまった。



「大佐…アンタ…。」
「何かね?」



鋼のはまるで周囲の目を気にするようにちらりと目配せして、爆弾発言をした。






「大佐、今夜食事でもいくか?」

「は?」






思わず聞き返してしまったのは仕方ないだろう。
だって今まで彼は私の3時休憩のお茶にすら付き合ってくれたことがないのだ。
他意の無い軽い誘いであるのにも関わらず一蹴されてきた私に、あろう事か鋼の自身が食事に誘う。
ありえないじゃないか?


アルフォンスですら真っ白になってるぞ?部下たちはさながら灰だな、窓閉まってて良かったよ。


「に、兄さん…?」
「っちゅー訳だからアル、夜遅くなるぞ。」
「え、あ………う、ん。」
「無能もサボらず仕事終わらせておけよ?俺様が奢ってやるなんて滅多にないんだからな!」
「ああ…わかった。」


返事をする前から決定事項のように言われ、特に今日は用事も無いので勢いで頷いてしまった。

満足したのか、赤いコートを翻し颯爽と部屋を出ようとする少年は、扉の前で一度だけ立ち止まりこちらに視線を向けてくると

「図書室に行ってくる。後で迎えに来るからな?」

それだけ言って、アルフォンスを伴い司令室を後にした。





その場にいた軍人達が頭の上に「?」を乗せて呆けていると、執務室から音も無く現れてホークアイ中尉が口を開く。

「エドワード君は本当に洞察力のある子ですね。」

洞察力?どういう事だ?と聞く前に中尉は無感情そうな瞳を少しだけ柔らかくして鋼のが出て行った扉を見つめながら答えを教えてくれた。

「大佐、昨夜何かありましたね?今日は調子が悪そうですよ。」
「む…無かった訳ではないが…。」


確かに昨夜、私は結構気に入っていた女性とデートをし、人生初めて相手から別れを告げられていた。
綺麗なストレートの金髪と豊満な肉体を持つ美女で、割と賢く会話が楽しめる女だった。
自分から別れを告げるのは日常茶飯事なのに、相手からの別れは何故か無性に心を苛立たせ、未練こそ無いものの、度数の高いブランデーをボトル半分程煽って眠ったのだ。


まさか、そんな心の機微にあの鋼のが気づいたと言うのか?


「洞察力って言えば、俺の腕に気付いたのは大将だけだったなぁ。」
「ハボック、貴様怪我でもしたのか?」

軽く視線を流せば、やばいと冷や汗をかきながら左袖を撒くって包帯の巻かれた手首を揺らす。

「視察に出た時ちょっと捻ったんスけど、本当にちょっぴりですよ?」
「何があったかは知らないけど、ハボック少尉は報告書を怠らないように。」

凛と告げる中尉にハボックはバツが悪そう敬礼して見せた。






「フュリー曹長はそろそろ眼鏡の替え時じゃないですか?」




くすくすと笑いを含ませて、扉から響いてきたのはアルフォンスの声。


「ファルマン准尉は僕達が前回来た時風邪引いてましたよね。」

ガシャガシャと音を立てながら部屋を突っ切って私の方へ向かってくる。
それでも言葉は止まらない。

「ブレダ少尉、随分前兄さんが見張りを交代してあげた時、お腹壊してたでしょ♪」

楽しそうに紡がれるそれは、兄を誇らしく思う現われなのだと、その時は思っていた。






「兄さんは皆さんの事を良く見てますよ。」
「そのようだね…。」



「母さんの病気に気付いてあげられなかったあの日から…兄さんは特に人の健康面を気にしています…。」



少し間があったのは、皆が黙り込んだから。
我々はこの少年達の悲しい生い立ちを知っている。


「自分の事には無頓着なくせに、本当にやんなっちゃいますよね♪」


おどけて話すアルフォンスの声から哀愁などは感じられなかった。
どこまでも明るく、幼い口調で、余計に心に鮮烈に響く。




私はだれ切っていた頭をクリアにする為に己の頬を両手で叩いた。

フュリーは行きつけの眼鏡屋に予約の電話を入れ、ブレダはダイエットの計算を始め、ファルマンは最近取っていなかった有給の申請に。
ハボックはおかしな動きを始める仲間をぼんやりと見つめ、優しく笑って左の手首をそっと撫でる。



「あ、そうそう大佐。兄さんが大佐から資料室の鍵借りて来いって…。
兄さん本人じゃないと駄目って言ったんですけど、いいですか?」

「勿論。君は信用に値する人間だよ?」


鋼のが来たと聞いた時点で頼まれると予想してポケットに仕舞っておいた鍵を取り出すと、アルフォンスの手に乗せてやる。


「ありがとうございます!」
「アルフォンス君、鋼のに伝えてくれたまえ。」
「?」


「根を詰めすぎるのは良くない。お茶を飲みに司令室に戻って来るように、と。」


ちら、と中尉に目配せすれば本当に滅多にお目にかかれない優しい笑顔で頷かれ、エドワード効果の凄まじさを実感した。
無論自分自身も感化されている訳だが。


「ありがとうございます!兄さんに伝えてきますね!!」


本当に嬉しそうに、感謝の気持ちを声と全身で伝えてくるアルフォンスに軽く頷いてやり、私は執務室に戻った。



今からあの心優しい金色の少年とお茶を飲む。
それは絶対だから、その後にこの机の上に溜まった書類をどういう時間配分でこなすか考えなければいけない。
お迎えの時間は想像するに就業時間ぴったり。結構シビアそうだ。

嫌いな事務処理を大至急で上げなければいけないというのに、苦痛にすら感じていない自分の単純さに笑ってしまう。




初めてのディナーはご馳走してくれるらしいから、私の行きつけのアットホームな店にしよう。
別に彼も国家錬金術師なのだから金額などは気にしないが、少しでもこの街に戻って来た時に心安らげる場所ができたら良い。




「ふむ。まぁ大丈夫だろう。」


独りごちて執務室のほうに振り向けば、満面の笑顔で可愛らしく尻尾を揺らす小さな子供が飛び込んでくる瞬間だった。














少年が少女であると知り、エドワードに熱烈な愛の告白をするのは、またこの一年後の話しである。






なんか急に短編が書きたくなり…。
もうね、大佐も軍部の皆さんもエドにメロメロでいいんですよ。大事にしたってね。

pana 2005/11/14








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