pana自分の誕生日を祝ってしまえ記念小説(笑)
愛の力コブ






私、ロイ・マスタングは危機的現状に立たされていた。
単独行動は危険だと言うホークアイ中尉を振り切り、テロリスト達の潜んでいると報告を受けた建物に潜り込んだのは1時間程前だろうか。

たいした事の無い連中だと高を括っていたのだが、中に一人だけ腕の立つ男がいたらしい。
私の気配を気取り銃口を向けられ、応戦した時にうっかり捻った足首が酷く痛んだ。ひびでも入っているのだろう。紫色に腫れ上がり、見るも無残な様相。

間抜けな事だと自嘲気味に笑う。
気配を殺し、大量の銃器が隠されている木箱が並ぶその影に座り込んで周囲を伺った。
どうやらまだここには気付いていないようで、聞こえてくる話し声は一つ上の階のものだろう。
ほう、と息を吐き出し…捕らわれている鋼の錬金術師を想った。











山と詰まれた書類の山に辟易し、逃亡を図ろうとペンを置いた午後三時頃。
もの凄い破壊音と共に執務室へ駆け込んで来たのは、鋼の錬金術師の弟、アルフォンスだった。
銀時計を持っていない彼は、門に立っていた兵を振り切って来たらしく扉の外は偉い騒ぎで、姉に比べて大人しく優しい性格であるが故に事の重大さが窺い知れる。


とにかく落ち着かせなければとソファを勧め、物音に気付き集まってきた部下達に視線を投げて退室を促す。
しかしそれに気付いたのか、アルフォンスは慌てて両手を振り口を開いた。


「待ってください!皆さんにいらして頂いたほうが…っ。」

「一体何があったんだね?君が一人なんて…鋼のは?」

「姉さんが…テロリスト達に捕まっちゃったんです!」

「なんだって!!」


瞬間ざわめく室内の空気が重くなり、そしてしんと静まり返った。
状況を話そうと、アルフォンスが改めて私に向き直ったせいだ。

身体の末端が冷えてゆくのが判り、多分今自分は青褪めているのだろうと思った。
今にも震えそうになる両手を握り締め、睨み据えるようにアルフォンスに臨めば部下達も居住まいを正し改めて耳を傾けた。



「姉さんは絶対無事な自信はあるんですが…。」
という我々からしたら全く根拠の無い前置きから始まった少年の話はあまりにもエドワードらしいというか、呆れて思わず開いた口が塞がらないようなものだった。


簡単に言えば、彼女はわざと捕まったらしい。
報告書提出の為に降り立った駅のホームで爆弾を仕掛けている男達を見つけた姉と弟は示し合わせて別行動をとった。
それは互いの信頼の元に成された行為ではあるが軽はずみであると叱りたくなるのは当然のこと。
場所の確定と我々をその場所へ導くまでの時間稼ぎのために男達を引き付け捕らえられた姉の後を追い、建物の確認をしたアルフォンスが今ここにいる。

私は大きく大きく溜め息を吐いた。
おそらく一度は止めたのだろう、鎧の身体を小さくして私の表情を伺っているようだ。

指示するまでもなくファルマンがイーストシティの地図を机の上に広げ、フュリーが機材の確認に向かう。
ブレダとハボックはすぐに動ける部隊とそれに伴う銃器や軍用車両の手配に部屋を飛び出すと途端に静まり返る執務室。

申し訳なさそうに座り込んだアルフォンスの肩を、ホークアイが優しく撫でた。


「次からはこんな勝手な行動しちゃだめよ?」

「はい、すいませんでした…。」

「どうせ鋼のが言い出した事なのだろう?説教は彼女にするから安心しなさい。とにかく今は救出が第一だ。」

「ありがとうございます…宜しくお願いします。」


その会話の1時間後にはテロリスト達の潜む建物の周囲を軍人が包囲し、そのまた1時間後が現在、という訳である。







自分の無能さに辟易する。
木箱に背を預け、腰に挿してきた拳銃を確認した。
拳銃は軍人の嗜みとしてきちんと整備されているし両手の発火布もまだ使用可能で、問題があるのは私自身のみ。
部下達が雪崩れ込んで来るのが早いか、私が見つかるのが早いか、全身から滲み出る脂汗を感じながらただ時間が過ぎるのを感じていた。

ずくんずくんと絶えず痛み続け、腫れ上がってゆく左足を摩りつつも、周囲の物音に集中しようと目を瞑り耳を欹てる。
テロリスト達は馬鹿話に夢中のようで、あそこの娼館の女は良かっただのそんなくだらない会話に花を咲かせていた。

すると突然のざわめき。数名の男の叫び声が聞こえた。
小さな地響きと揺れに何かが起こっているのであろうことが伺えるが、鋼の特有の派手な錬成音は聞こえない。

階下からも大人数の足音が聞こえ始めた。
こちらは間違いなく自分の部下達であろうと確信する。
足音や走る時に銃器が擦れる独特のものだからだ。
上から一気に人が走り降りてゆく。
一体何が起こっているのか全くわからず、焦りだけが胸を占めていった。


「中尉!駄目だ引いて!!ここには爆弾が仕掛けられてる!」


耳に届いたのは愛してやまぬ少女の声。
無事だったのかと胸を撫で下ろす。
そしてふと現状を思い出し、苦笑いを浮かべた。

立ち上がろうとしてもがくんと膝が落ちる。
たった1階分の階段までも行き着けない。

声を上げるか?
死ぬよりましだろう。

すると先程よりも悲痛な叫び声が少しずつ近づいてくるのが判った。


「だめよ!エドワード君戻って!!」

「大佐!!たいさぁっ!!!」


その時上階から大きな爆発音。
爆風は階段からここまで届いた。
熱風と、煙と埃と炎。
火元がこの近くだったらば私の錬金術でどうとでもできるというのに、下手に奥まった場所であったためにそれすらも出来ずに舌打ちする。

木箱の隙間から辛うじて見えるこの部屋の入り口付近は、炎のせいでオレンジ色に染まっていた。


「大佐!どこだよ!!声出してくれよぉっ!」


このまま諦めて逃げてくれと思っていたというのに、今にも泣き出しそうな声が切なくて愛しくて、思わず名を呼んでしまった。


「エディ…っ!エディ!!」

「大佐!?大佐ここか?ここにいるの?もっかい声出せってば!この無能っ!!」


こんな時まで手厳しいね、君は。
…まぁ間違いでは無いんだが。


「無能ーっ!へんじしろ!へーんーじーっ!!」

「………。」

「……ロイぃ…。」

「一人で戻りなさい、エディ。」

「ロイ?!」


柱が崩れたのだろう、大きな音が響き渡った。
頭はぼんやりし始め、足のせいなのか、熱にやられたのかすら判らない。
焔の錬金術師ともあろう者がこの体たらくかと木箱に頭をぶつけて意識を保った。
エドワードだけは守らなければ。
今ならまだ道を開くくらいできるだろう。
燃え盛る炎はちろちろとその姿を見せ始めていた。

声だけを頼りに駆け寄ってくる足音。
止まれと言っても聞きはしないなんて、本当は判っていた事なのに。

この部屋の高く積まれた箱の中には銃器類が詰め込まれている。
こんなに危険な場所はないのだから。


「来るんじゃない!戻るんだエディ!!」

「誰がテメェの言う事なんか聞くか!今行くからな、待ってやがれ!」


女の子とは思えない口振りは、いつもならば窘めるべきものだったが、何故か心地よく感じた。
三つ先の箱には通路が作ってあったのだろう、ひょこりと覗かせる金色のアンテナ。

駄目だと言うのに、君は本当に馬鹿な子だ。


「ロイ、見つけた…っ!……足怪我したのか?歩けないんだろ?」

「どうやら骨をやってしまったようでね、だから君は一人で戻るんだ。はやく行きたまえ。」

「何言ってんだよ、アンタらしくもねぇ!はやく行くぞ?肩貸せば歩けるか?」

「君の力じゃ無理だ。諦めなさい。生きてこそ、だよ?」


気丈にも手を差し伸べているエドワードの表情に悲壮感など一欠けらも無い。
それどころか私の言葉を聞いてきょとん目を開き首を傾げる始末だ。
いくら機械鎧を身に着けているとは言え、14歳になったばかりの少女の細腕で大の大人を支えたまま業火を抜けることができるなどと誰が思う。


「アンタ…俺馬鹿にしてんの?」

「馬鹿になどしてな………っ!ぎゃああっ!!」


やれやれと肩を竦め、中々差し伸べた手に答えない私に向かって三歩前へ進んだ。
てっきり腕を捕まれると思って後ろに引こうとした私を、一瞥する。
にやりと笑ったかと思うと両手を前に突き出し、エディはひょいと………本当にひょいと私を抱き上げたのだ。

それは俗に言うお姫様抱っこというやつで…。


「な…っ!」

「アンタ割と筋肉あるもんなぁ。でも俺にとっちゃ軽い軽い。」

「は?え………え、エディっ!君ちょっと!」

「うるせーの、黙ってろって舌噛んでもしらねぇぞ?」


まるで大きなシーツを持っているだけかのような身軽さで、エディは走り出した。
っていうか君のこの怪力は一体なんなんだね??


私はただ呆然と、私を抱きしめて走る小さな少女の顔を見つめた。
足先なんか地面についてしまうんじゃないだろうか、なんて心配するのもおかしい。
目の前に迫る炎に、エディは男らしく(語弊はあるが実際そうなので致し方ない。)舌打ちし、私の背中を指先でひっかく。


「ロイ、意識あっか?」

「あ…あ、まだなんとか。」

「あの火ぃなんとかしてくれよ。」


未だ現状に脳がついてゆけないが、焔の錬成だったらなんとかなるだろうと一つ頷き、右手を掲げて指を鳴らした。

見る間に人が通れる程の道が出来上がる。
エディは満足げに道の先を見据えた。

オレンジの光を映しきらきらと輝く金色の髪。
灼熱の業火より熱い、焔色の瞳。
薄れゆく意識の中で、益々もって心を支配されてゆく幸せを思い微笑んだ。

愛しい少女は可愛いだけでなく、誰よりもかっこよかったのだ。









目覚めると目に飛び込んできたのは真っ白な天井で、何度となく経験している場所にうっそりとため息を吐いた。
そういえばエディはどうしただろう。

ふと腹に重みを感じて視線を向けると、美しい金髪がほてりと乗っている。


「エディ…。」

「お、大佐お目覚めっすか?」

「ぶっ!」


声は自分の頭上からした。
ハボックだ。
せっかく愛しい少女に触れようと思った矢先なのだから気分が降下しても仕方ないだろう。
不機嫌を隠しもせずに部下を流し見れば、心底気分を害するニヤニヤ笑いをしいて、益々もってきつく睨み据えた。


「もうすぐ中尉と交代っすから、覚悟しといたほうがいいですよ?」

「…致し方あるまい。」

「ったく、大佐ともあろう地位の人間があんなとこ飛び込んだ挙句に骨折………ぷっ…くくく…。」

「何が言いたい貴様っ!!」

「私が説明いたしましょう。」

「中尉!!」


全身の血が一気に下がる。
部下なのになんでそんなに威圧的なんだ!
いつ入ってきたのか、物音すら気付かず…いや故意に立てなかったのかもしれないが、ホークアイとハボックが小声で一言三言交わして交代した。
無表情のままで佇む彼女は心底恐ろしい。


「は…はやく説明したまえよ。」

「了解しました。大佐が指揮することも忘れ、部下達を放置し身勝手にも単独で建物に潜入した挙句、無様に足を骨折してエドワード君に救出されてからの報告でよろしいでしょうか?」

「凄い棘だな…まぁいい頼む。」

「お姫様抱っこです。」

「何?」

「お姫様抱っこでした。」

「……っ!」


薄らぼやける記憶を手繰り寄せてみれば、そこには確かにお姫様抱っこでエディに抱かれ建物を脱出する自分がいた。

恥ずかしいなんてものではない。

血液が沸騰するような感覚を始めて味わっていた。
両手で顔を覆い隠し、立てた肩膝に突っ伏す。


「わ…わたしは…っ…」

「本当に…エドワード君格好良かったです…。」

「………。」



ほう、と溜息混じりに呟く中尉を見れば、瞳はうっとりと眠りこけるエドワードを見つめていて、その眩しいほどの金色の髪にあの薄れゆく意識の中で見た姿がだぶった。

確かに…猛烈に格好良かった。
あんなエディになら…抱かれてもいいってまてまて、私が抱くんだ私がっ!


報告とは言っても、結局は鋼の錬金術師の武勇伝を散々聞かされただけだった。
蕩けるような瞳のホークアイ中尉を私は初めて見たと同時に、もしや究極のライバル登場?と戦慄を覚える。
エディの寝顔を覗き込もうと彼女が顔を近付けた瞬間、思わず両手で抱き寄せてベッドの上に乗せてしまい、骨折した場所に彼女の腰が掠った。
苦痛に呻きつつもぐいぐいと引っ張って、その思いもよらぬ動きに少女が目を覚ます。


「ん…っ、たいさめがさめ、た?」


涙目のままこくこくと頷き、寝惚けたままのエディを掻き抱いた。
すると少し考え込む素振りをして、うーん?と小首を傾げた。
可愛いっ!
すりすりと頬擦りすればくすくすとくすぐったそうに笑って、あんな間抜けな自分を見られたというのに嫌われた訳ではないのだと安堵する。

すると心配そうな不安そうな表情で、エディが私の顔をじっと見つめてきた。


「……俺のこと嫌いになってない?」

「な?…なるわけないだろう?」

「だって俺凄い馬鹿力で…女なのに怖いだろ?」

「………それで隠してたのかい?」

「うん。」


私の胸に頭をこてんと寄せて、耳まで赤く染めたエドワード。
その愛くるしさに全身がぶるりと震えた。
小さな顎に手を添えて上向かせ、顔を傾ければ、金色の瞳はゆっくりと瞑られ隠れてしまう。
少し残念に思いつつも、口付けを受け入れてくれたのが嬉しくて、そのまま私も目を閉じた。


ちゃっ、ガチン、ごりり。

左側頭部に固い筒状のモノが押し当てられる感触。
何度も何度も経験して、その度に死ぬ思いをしているのだから、それが何であるかなど言われずとも判る。


「…っ!ちちちちち中尉!君まだいたのかね!!」

「忘れないでください。まったく、こんな事ばっかり抜け目無くて!」


中尉の言葉がちくちくと突き刺さり、私はがっくりとエディの肩に顔を埋めた。


「あれ?中尉〜おつかれさま!」

「お疲れ様、エドワード君。」

「どうしたの?見張り?」

「報告に来たのだけれど…ねぇエドワード君。」

「ん?」

「大佐、今日は絶対安静ってドクターに言われているのよ。それでね、夜は完全看護なものだから…私と食事にでも行かないかしら?」

「え…でも…。」


ちらりとこっちを伺うエディの表情が欲求不満を滲ませて私の胸を直撃する。
キスができないままなのがお気に召さないらしい。
そこがまた可愛くて、再び腕の中に閉じ込めてきつく抱きしめた。


「ロイ…っ!」

「エディ!離れたくないよ!!」

「俺も!」


三流ドラマのようにひしりと抱き合う私たちに、微妙に冷たい視線を送りつつ、ホークアイが病室を後にするのを横目で見送る。
やっと二人きりになって安心したら、どっと疲れが出たのか私はエディを抱え込んだままベッドに横たわった。


「ロイ?」

「すまないね…「だめだよこんなところで!」

「は?「俺恥ずかしいよぉっ!!」

「ぐっ…ぁ…!はな…ちょ…え…ディっ!」


腹部に縋り付き、ぎりぎりと締め上げる華奢な腕に内臓が圧迫され息をするのもままならない。
恥ずかしそうに伏せた顔は時折ドンと鎖骨を打つ。

頭蓋骨って鍛えられるのか?!こ…このままでは死ぬ…っ!

みしり、めきっと嫌な音が響きエディは自分のしている事に気付いたのだろう、慌てて腕を離してくれ…。


「やだ!大佐っ!!大佐っ!!」


ナースコールを押しながら必死に叫ぶエディの声。
再び意識を失う寸前、自業自得だと笑う中尉の顔が浮かんで消えた。






肋骨にヒビが入ってしまったらしくエドワードは怒り狂った医師とナースに病室を追い出されてしまった。

かくして私は、その日の内に中尉の言葉を具現化させ、絶対安静を言い渡されたのである。






退院するまで会わせて貰えなかったエドワードとの感動の対面は執務室だった。
じわりと大きな瞳に涙を浮かべ、ごめんねごめんねと繰り返す。
両手を広げて近づいて来る彼女を抱きしめようと、凝りもせずに手を伸ばした私の腕に見事なチョップを中尉にキメられ、当分の間清い関係が続きそうだと肩を落としたのは言うまでも無い。





END


〜おまけ〜

絵茶で「こんなお話なんですよ〜」って会話していたら安荘さんがロイを描いてくださったのでpanaエド子お姫様抱っこの図です♪
凄い幸せなんですが!
安荘さまありがとうございました♪
誕生日ありがとうSSのつもりが結構長くなった挙句に微妙にエド子ロイっぽいのはなんででしょうか(爆)
エッチなしですけど、楽しんで頂けたら嬉しいです。(え?無理ですって?)

pana 2006/8/5








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