旅をする猫 続編
寒い夜は。
※このお話しはパラレルです。苦手な方は回れ右、大丈夫な方はこのままスクロールしてやってください。
















































暖かくて柔らかな大きいベッド、真っ白なお日様の匂いのするシーツ、枕を二つ並べて姉弟は今夜も布団に潜り込む。

取り留めの無い話をして、おやすみのキスを頬に。


大好きなアルへ。

大好きな姉さんへ。






マスタング邸に住まわせて貰うようになってから、アルフォンスは頑なだった『兄さん』という呼び方を『姉さん』に改めた。
旅から開放されている今、エドワードを脅かす危険が無いからだ。

最初に雄と偽って旅をしようと言い始めたのはアルフォンスで、鈍感なエドワードにはどうしてそうしなければいけないのか理解できていなかった。
ただ、可愛い弟がそう言うなら別にいいか。それだけ。
元より男勝りな口調だったし、雌と遊ぶよりは雄と遊ぶ方が多かったと思う。
何の違和感もなく、すんなりと受け入れ、男装のお蔭でエドワードの知らない間に数回危険を回避している。


「姉さんは本当に自分の可愛さ判ってないからなぁ。」
「そのようだね。君は良く頑張ったよアルフォンス。」
「ありがとうございます。姉さんは女性だっていうだけで危険が伴う意味も判って無いんですよ。」
「あー…それは随分と…。」
「別に教えてくれなくても大丈夫ですからね?マスタング大佐。」
「う…。」

エドワードがお茶を淹れに行っている間にさりげなく釘を刺し、アルフォンスは満足気に微笑む。
だからと言ってロイが嫌いな訳でもないし、むしろ感謝しているのだが、こと姉に関してだけは譲れない。
もう少し甘えさせて貰おう、と心の中で舌を出し、今日もエドワードとロイの甘い時間を邪魔するのだ。
恋人同士な訳でも無いのに、二人きりになると何故かハートを撒き散らしているような、砂糖菓子に蜂蜜をぶっかけてるような雰囲気になってしまうから。


「ろい、アル、お茶…ってどうした?ろい。」
「いや、何でも無いよエディ。」
「兄さん、今夜のお茶菓子はなぁに?」
「あ、今日はアップルパイ!」


手際良く大きなマグカップとそれより少し小振りなマグカップを二つ置き、湯気の立つティーポットをロイに渡す。

「ろい、今日もいらないの?」
「ああ、甘いものはあまり食べないんだ。」
「んー、駄目。今日は俺と半分こしよう!」
「姉さん、苦手な人に無理矢理食べさせるのはだめだよ?」

エドワードは愛らしい頬を薔薇色に染めてぷくりと膨らませた。
服装は動きやすい少年用のシャツとパンツだが、白いレースのエプロンが少女を益々可愛らしく見せてロイは伸びそうになる鼻の下を引き締めた。

「だってロイ『あまり食べない』って言っただけで嫌いとは言ってない!」
「そうだけど…。」
「食べられない訳じゃないさ。でもどうしたんだい?アップルパイはエディの大好物じゃないか。」
「だって、なんかろい疲れているみたいだし…。甘いものは疲れている時凄くいいんだぞ!」
「エディ…。」

可愛い!すっごい可愛い、もうやばいくらい可愛い!!!
思わず抱き締めようと手を広げたロイの足を同じソファに座っていたアルフォンスが力一杯踏み付ける。

「ぐぁ……」
「ろい?急にどうしたんだ??」
「さ、姉さん食べよう♪…あれ?大佐どうかしたんですか?」

白々しいアルフォンスを涙目で睨みながら、ロイはそっと左足を摩った。

「ろい、ほらあーん。」

小さな指に握られた銀のフォーク、差し出されたアップルパイの欠片は本来とは違う甘さを伴って、素直に開いたロイの口の中に差し入れられた。
アルフォンスの尻尾が盛大に毛羽立ち、たすたすとソファを叩いていたのはこの際見なかった事にし、口を閉じて味わう。

「美味いか?」
「美味しい…。これはもしかしてエディが作ったのかな?」

満面の笑みで首を縦に振る少女の頭を優しく撫でてやった。

「本当に美味しいよ!姉さん♪」
「やった!リザさんに教わったんだぞこれ!」
「そうか、部下達は優しくしてくれてるかい?」
「勿論!皆凄くよくしてくれてる!」

最近は、家で待つ子猫達のためにも極力サボらないように心がけている。
しかし大佐という地位や軍人という職業がどうしても二人を構ってやれない状況にしてしまう事が多々あり、ロイは自分の部下達の協力を仰いで、どうしても帰れない日などは軍部に連れて出勤しているのだ。

「僕この間ハボック少尉と組み手やったんですよ!やっぱり軍人さんは強いですよね!」
「アルフォンスとハボックがかい?怪我はしていないだろうね?」
「大丈夫、アルも俺も師匠んとこで散々辛い修行してきてっからな。その辺のナマクラ軍人なんか錬金術使わなくても倒せらぁ。」

一応ナマクラであろうが頭脳派であろうが基礎は積んでいる筈の軍人相手ににっこりととんでもない事を口走るエドワードに思わず苦笑を漏らす。

「ハボックは結構強かっただろうに。あぁ見えても私の直属の部下だからね?」
「えぇ、強かったです!久しぶりに姉さん以外の人と楽しく組み手できました♪」
「………。で、どちらが勝ったのかな?」
「僕です♪」
「ほ…ほぉ…(聞いて無いぞ、ハボック!)、それは凄いなアルフォンス。」

がしがしと頭を撫でると嬉しそうに目を細め、弟は可愛らしく爆弾を落とした。

「その後姉さんもやって勝ちましたよ。ね?姉さん。」
「あぁ!勝った!!俺も褒めてろい!」
「………………。凄いなぁ!知らなかったよエドワード!!はははは…。」


(ハボック、姉弟の事は全て報告しろと言ってあったのに!負けたのがバレたくなかったんだな。減給してやるか…。)

背中に嫌な汗をかきながら、ロイは同じようにエドワードの頭を撫でてやった。
片耳だけへちょりと倒し、尻尾はひこひこと揺れている。
パイが美味しくできただけでなく、ハボックに勝った事を褒められ、幸せそうにくふんと笑った。


すっかりロイを飼い主と認めてしまっているような姉の行動はアルフォンスを戸惑わせたが、まだ1ヶ月に満たないここでの生活はやはり心地良く、軽い人間不信であった二人の心もロイやその部下達のお蔭で随分和らいでいる。

「姉さんがもう少し大人になったら許してあげてもいいんだけどな…。」

弟の呟きはにこにことピンクのオーラを飛ばしてケーキを口に運び合っている二人の耳には届かなかった。









お茶の片付けも終わり、中々戻って来ない姉を弟が心配し始めた頃、腕まくりを戻しながらエドワードはリビングに顔を出した。

「ろい、お風呂お湯はってあるよ?」
「そうか、すまないね…君達先に入ってしまいなさい。私にはまだ目を通さなきゃいけない書類があるんだ。」

猫だと言う割には非常に風呂好きな姉弟は毎日欠かさずバスタブに湯を張ってくれる。
シャワーだけで済ませるのが常だったロイの生活は、全ての意味で一転してしまっていると言っても過言ではない。。
書類を捲る手を止め、視線だけエドワードに向けると、困ったように肩を竦めている。

「主人より先に風呂に入る猫がいるかよ。」
「生憎私は君達を猫扱いしていないのでね。」
「大佐、僕達耳と尻尾が猫毛なので、お湯に浮いちゃうんですよ。だから…。」
「私は気にしないんだがな…。」
「俺達はすんの!」


渋々立ち上がり、書類を置いてバスルームへ向かった。
人と生活するのは士官学校へ入るために家を飛び出して以来で、正直最初は戸惑いの方が多かったかもしれない。
しかしエドワードは常に仕事で疲れているであろうロイを中心にして家事をこなし生活してくれているし、それを一緒に手伝っているアルフォンスも姉がちょっかい出される時以外は声を荒げる事もなく、穏やかに楽しくやっている。

決して嫌われている訳ではないのだろうが、やはりロイだけが他人だという事もあり、多少の疎外感や寂しさを感じないでもなかった。

「あんな子供達相手に、私も変わったものだな。」

自嘲気味の呟きはシャワーの音にかき消され、流れていった。









「あ、お帰り姉さん。ゆっくり温まれた?」
「ばっちり!ってあれ?ろいは?」
「明日は出勤がいつもより早いからって、さっき寝室に行っちゃった。」
「じゃ、俺達も寝るか♪」
「うん!」


大きなベッドも柔らかい枕も、お揃いで色違いの机と椅子も、ロイが二人の為に特別に買い換えてくれたもので、姉弟の宝物。
でもそれは少しだけ戸惑いも生んだ。

こんなにして貰っては、ずっといても良いのだと勘違いしてしまいそうになるから。

ロイはいつか人間の女の人と結婚をして、子供を作って幸せになるだろう。
その風景にエドワードとアルフォンスはいてはいけない。
出来る事ならば…と夢を見てしまいたくなる程には、二人はロイを好きになってしまっていて、複雑な気持ちになる。


「あったかいね、姉さん。」
「幸せだなぁ、アル。」
「幸せだね。」
「今日は洗濯物干してて随分寒かったぞ?」
「そうだね、さっき空気の入れ替えしようと思って窓開けたら耳がびりびりしたよ。」
「うわ。寒そう。」


枕を並べて二人で眠る。
それは高価なベッドや毛布とは関係なく、とても幸せで暖かい事を長い旅で知った。

「なぁアル、ろいは一人で寝てるんだよな。」
「あ、そうだよね!寒くないのかな…。」

うつ伏せに枕を抱き込みながらエドワードは考える。
羽毛の枕に頭を埋めて、アルフォンスも考える。

「行くか?アル…。」
「うん♪」





二人で眠ると幸せなら、三人で眠ったらもっと幸せで暖かいんじゃない?












部屋の灯りを消して、眠りについていたロイは、扉を開ける物音で目を覚ました。
足音は一切聞こえない。
まさかと思い、毎夜念のためにと枕元に置いてある発火布を手に取ろうと伸ばすと、先手を取られ小さな影に奪われてしまった。

くすくすくす。

密やかな密やかな子供の笑い声。
可愛らしく顔を見合わせて口を抑えあったりしているのだろう。


ぎしぎしとベッドの軋む音。
それは両側からして、ロイを戸惑わせる。

(なにをする気なんだろう。)


ぼす、ぽんぽん。
頭の両脇に何かが置かれ、埃をはたくような仕草で軽く手を置いている。
起きないようにと気を使っているのか、小さく掛け布団をまくられ、予想外にも二人はロイを挟んでベッドの中に滑り込んできた。
少しだけ身を起こしているのがシルエットで判る。

すると両頬に小さな温もりがチュッと音を立てて落ちてきた。

(キス???)

「ろい、起こしちゃってごめんな?」
「…気付いていたのかい?」
「だって大佐は腐っても軍人さんですもん!」
「アルフォンス…。」
「それに俺達は夜目がきくんだぞ?」

普段からハボックやホークアイに色々と吹き込まれている姉弟は、口にこそ出さないがロイの無能ぶりを良く知っている。
辛辣なアルフォンスの言葉に頭痛を覚えながらも、両側に横たわった小さな温もりにほっと身体を弛緩させた。

「一体どういう風の吹き回しかね?」

溜息交じりに聞けば、姉はロイの腕を枕に平行に伸ばさせ、頭を乗せたり離したり。
弟は脇腹の辺りでぐいぐいと頭を押し付けている。

「何って、なぁ?アルフォンス。」
「ねぇ、姉さん。」

どうやら自分のベストポジションを見つけたらしく、二人はこてんと横になった。

「おやすみのキス。」
「二人より三人。」

幸せだろ?と笑う二人に、ロイは我慢できず噴き出した。


本当に本当に幸せだな。
馬鹿みたいに幸せだ…。


「私からのキスはさせて貰えないのかな?」

がばっと起き上がり、二人は嬉しそうにロイの側に頬を寄せる。
してして!とおねだりするような仕草に、胸が温かくなるのを感じた。

ちゅ、ちゅ

唇の先が触れるだけの淡いキスを音をたてて贈れば、姉弟は満足気に笑いあい、再び同じポジションで横になった。

「おやすみ、ろい。」
「おやすみなさい、大佐。」

「あぁ、おやすみ。」



家に親友と緊急時の腹心以外の人間を上げることが無い自分が、ベッドだけはと寝心地良く大きいサイズのものを購入した。
イーストシティに来てすぐの事だ。
それが今役に立っている。

「君達ね…、これじゃ私は寝返りも打てないじゃないか…。」

肩を竦めるのはポーズだけ。ロイは自分の今の表情を想像して、くすりと笑った。
エドワードは腕枕、アルフォンスはロイの腰に額を押し付け、器用にも身体を小さく丸めて眠っている。
唯一自由な右腕で、上掛けを直してやると、埋もれてしまったアルフォンスが端から尻尾をひょこりと出した。


もう少しこの状況を楽しみたいのに、切ないほど甘くて優しい温もりがロイを眠気の波に飲み込んでゆく。
肩口で眠るエドワードを抱き込み、アルフォンスの背中に手を置いて、誘われるまま目を閉じればあとは朝までずっと一緒。









暖かくて柔らかな大きいベッド、真っ白なお日様の匂いのするシーツ、枕を三つ並べて家主と姉弟は今夜も布団に潜り込む。

取り留めの無い話をして、おやすみのキスを頬に。




大好きなアルへ。


大好きな姉さんへ。


大好きなろいへ。
大好きな大佐へ。


大好きな君達へ。





END
今日は連載モノを更新するんじゃなかったのか?
もうやだ!嘘つきだ自分。・゚・(ノД`)・゚・。

でも満足なのですよ。
このお話し、『旅をする猫』というタイトル通り、もし続くとしたら旅に出ます。
帰る家がある、そんな素敵な旅をさせたいのですよ。
そんな妄想でできたお話なのに、そんなとこまで続いちゃいないのがポイントです。
むしろポイントなのは馬鹿な私の足りない脳みそです(苦笑)。

pana 2005/11/27








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