猫エド子猫アルパラレル
旅をする猫 後編
※このお話しはパラレルです。苦手な方は回れ右、大丈夫でしたらこのままスクロールしてくださいませ。




















































穏やかな、笑っちゃうほど穏やかな雰囲気を醸し出し、午後のお茶会が目の前で繰り広げられている。

どこから見ても人間の子供なのに、頭の上に可愛らしくぴょこぴょこと猫耳を揺らし、尻尾は楽しげに揺れて機嫌まで丸解りの二人の子供。
微笑みすら滅多に見せない副官の満面の笑顔。
薫り高い茶葉で淹れた紅茶と美味しいケーキ。
そしてどこにでもありそうな世間話。

ここはどこだ?確か当方司令部の執務室…だったはずなんだが。

超不思議空間に痛む頭を指で押さえ、ロイ・マスタングは大きな溜息を一つ零した。




「中尉、そろそろ二人と話をし……。」
「大佐はそちらの書類を終わらせてからです。」

あまりにもきっぱりと言い捨てられ、自分の立場というものを考えさせられた。
ホークアイ中尉は弟を右、兄を左側に座らせ両手に花でひたすら頭や喉を撫で摩っている。

気持ち良さそうにうっとりと目を細めているアルフォンスは半分頭を中尉の膝に預けてしまっていて、先程までのしっかりとした雰囲気は欠片も無い。
エドワードは根が意地っ張りらしく、ぷいと他所を向いたまま、それでもその場所から離れず好きなようにさせているのだ。

(尻尾の先がぴこぴこしてる…結局気持ちいいってことだな…。)

書類にサインをしながらも、ちらちらと様子を伺ってしまう。
柔らかそうな髪の毛やそこから生えている耳、ふにふにと良く動く愛らしい尻尾。
エドワードは濃厚な蜂蜜のような、アルフォンスはそれよりも少し茶色味の強い色彩で、ちょっとお目にかかれないであろう整った顔立ちだ。
自分も触ったり抱っこしたりしたい、などとホークアイの手前口が裂けても言えず、ロイは再び小さく溜息をつく。


「…じゃあ二人はずっと旅をしているの?」
「そうなんです…。」

心持ち垂れた丸い瞳をとろんとさせて弟が答える。

「ご両親は?」
「………。」
「母さんは死んだ。親父は行方不明だ。」

悲しげに耳を垂らしてしまった弟の代わりに無口なエドワードが口を開いた。
気丈そうな強い瞳をそのままに。

「ごめんなさいね…。」
「いや、大丈夫。気になんかしていないから。」

会話が途切れてしまい、居心地が悪そうにもぞもぞと尻尾が揺れるのを横目で見ていると、中尉が少しだけ腰を浮かせる。

「お茶のおかわり、淹れてきましょうね。」

しかし立ち上がる事は叶わなかった。
時には兄を諌め、大人びた振る舞いをするアルフォンスがホークアイの膝に抱きつき行かせまいと踏ん張ったからだ。
エドワードはそこで初めて切なそうに眉を寄せた。

「アル…。すいませんリザさん…。」
「いいえ、いいのよ。じゃあ一緒に行きましょう、抱っこしてあげるわ。」

未婚であるにも関わらず、まるで聖母のような微笑を湛えたホークアイにロイもエドワードも釘付けになった。
元より動物好きな彼女ではあったが、動物と言い切ってしまうにはどうも外見が人間的過ぎる彼らに対する態度は母性本能なのだろう。

アルフォンスは頬を真っ赤に染めて両手を広げたホークアイの胸に飛び込んだ。

扉が静かに閉まると、俯くエドワード。


「アルフォンス…リザさんに母さんの面影でも見てるのかな…。」


聞こえないように言った訳ではないのだろうが、本当に小さく呟かれた言葉はロイの耳にもしっかりと聞こえていた。
丁度最後の一枚を決済済みの書類の山の上に乗せ、握っていた万年筆をかたりと置く。
ゆっくりと立ち上がりエドワードの傍まで歩けば、耳だけがこちらを向いてぴこりと反応した。

「ねえマスタングさん、俺達の旅には目的も終わりもないんだ。」
「そうなのか…。」
「住む所なんて無くなっちゃったし、人間が使う錬金術は、俺達のとは少し違うから色々見てまわろうって…そんだけ。」
「アルフォンスも錬金術を使えるのかい?」

エドワードはこくりと頷く。

「俺達に練成陣は必要ないからね。色々勉強になったよ。」
「そうか、素敵な旅をしたんだな。」

そうでもない。とエドワードは寂しそうに微笑んだ。

「帽子が取れちゃって化け物って石を投げられた事は一度や二度じゃない。
そんな時は人間の言う完全な猫の姿になって逃げるんだ。ちょろいもんだぜ?」

凄いだろ、と不敵に目を細める。

この子は泣かないのだろうか。
どうにも居た堪れなくなって、ロイはエドワードの頭をくしゃりと撫で抱き込む。
ゆっくり隣に座れば、素直に膝の上に頭を乗せる小さな子供。
なんだか妙に穏やかな気持ちになって、何度も何度も優しく髪を梳いてやった。

胸に込み上げる愛しさは、ロイにとって初めての感情で、それがどんな意味を持つのかなど全く理解できなかった。
無作法を窘められながらも、実は弟を必死で守っているのであろうエドワード。
庇護欲のようでもあり、純粋な愛情のようでもあり、この小さな子供の泣き場所になりたいのだと、それだけははっきり自覚することができた。




「マスタングさん…リザさんはアルを飼ってはくれないかな…。」
「何を突然…そうしたら君達兄弟は離れ離れになってしまうじゃないか。」
「いいんだ、アルが幸せなら。俺は一人で旅を続ける…。」


その時、突然執務室の扉が開き、飛び込んで来たのはアルフォンス。
抱いていたままの体勢でホークアイは驚きに目を見開いている。

怒りに全身の毛を逆立て、目は涙で潤んで全身をふるふると震わせていた。

「兄さんの馬鹿!!兄さんと一緒じゃなきゃ意味ないのに!!」
「アル…。」

ロイの膝から身を起こし、弟を抱きとめたエドワードは体格や容姿を超えて長男の表情をしている。
その二人の姿に目を細めれば、やはり同じように穏やかに微笑むホークアイがポットを乗せたトレイを片手に執務室に入ってきた。

怒り覚めやらぬアルフォンスはぷくりと頬を膨らませたままエドワードを一睨みし、その金色の尻尾を手で抑え付ける。

「それに良く考えてよ、僕まだ子供だけど男の子だよ?このまま大きくなって大人になったときリザさんと暮らしてたら問題山積みじゃないか!」
「あー…そういえば。」

うーん、と唸り考え込むエドワード。
ホークアイはソファの後ろに立ち、二人の頭を同時に撫でてやった。

「君達は人間のように成長するのかね?」
「そうだよ、今俺が12歳でアルが11歳、ちゃんと年は重ねてる。成長速度は人間と一緒なんだ。」
「僕達はほとんどこの姿で過ごしているので、やはりペットと同じ扱いという訳にはいかないんですよ。」
「俺達は気にしないんだけどな?猫だし。…でも飼う側にとっちゃ一生問題か…。そうだよなぁ…。」


アルフォンスが体重を預けたのか、エドワードの身体が体勢を崩して再びロイの膝の上に倒れ掛かる。
ロイは弟の身体を引き剥がし左足の上へ、エドワードを抱き起こし右足の上へ乗せ二人同時に抱きしめた。

「やれやれ、君達を『猫』として扱うのは無理な話だね?ホークアイ中尉。」
「そうですね。」

二人の大人は顔を見合わせ、うんうんと頷きあう。

「そこで提案なんだけどね、私の家は独身の身には広すぎて部屋が一杯余っているんだ。
どうかね、君達が好きなだけうちに住むというのは?」

エドワードの大きな瞳がぱちりと瞬く。

「住む?」
「そうだね、等価交換で家事なんかを頼めればいいんだが。」
「等価交換…。」

真剣な表情で口の中で繰り返される言葉。
先に口を開いたのは予想に反して弟のアルフォンスだった。

「だめだよ、兄さん。」
「なんで?」
「だって兄さん女の子だもの、マスタングさんは男の人でしょ?」

「「は?」」

さらりと言った言葉には矛盾があって、冷静沈着なホークアイも、若き国軍大佐も綺麗に固まってしまった。

「マスタングさん女癖悪いって沢山噂聞いたじゃないか。」
「でも俺まだ子供だし…。」
「ちょっと待って二人とも!」

フリーズを先に溶いたのはホークアイ。

「エドワード君は…女の子なの?」
「そうだよ。」

耳をひこひこと揺らし、尻尾で真っ白になっているロイの頬を叩く。

「マスタングさん?大丈夫か?」
「最初は女の子の恰好してたんですけど、旅の間に何度か危険な目にあって…。」
「そうだったの…大変な旅だったのね…。」

会話は全部聞こえていた。ただ動けなかっただけで。
一体どこでそんな変な噂を聞きつけたのか。出会った直前の姿を見られていたのかと、ほんのり手に汗をかく。
ロイは慎重に息を吐き出し、二人の子猫を抱く力を一層強くした。

「マスタングさん?」
「余計に旅に出したくなくなってしまったよ…。
中尉、司令部の奴らをここに連れてきてくれないか?」
「はっ。」

上官命令に颯爽と踵を返すホークアイをきょとりと見送り、子供達はもう一度ロイを見上げた。

「知り合ったばかりの人間は恐いかい?」

まるでふんわりと包み込んでくれる夜の闇のように真っ黒な瞳は優しく細められていて、二人は同時に首を横に振る。

「俺、マスタングさん大好き。」
「兄さん…?」
「それは嬉しいね、私も君を好きになってしまったみたいだよ。」

妙齢の女性達に向けるような甘い瞳で、ロイはエドワードに微笑みかけた。
鈍感な少女はうっとりした訳ではなかったが、それでも嬉しそうに笑って、ロイの首に抱きつく。

「一緒に住もうか?エドワード。」
「うん、いいよ。」
「じゃあマスタングさんと言うのはちょっと他人行儀だね。」
「何て呼べばいいの?」
「ロイ。」
「ろい?」

「ちょっと待ってよ兄さん!」

既に出来上がっちゃってる感じの二人に割って入ったアルフォンスはエドワードの頬を両手で包み込んで無理矢理視線を戻す。

「さっき僕が言ったの覚えてる?」
「どれだ?」
「今はまだ子供だけど、兄さんだってもう少ししたら普通に女性に成長するんだよ!
マスタングさんの迷惑になっちゃうってば!」

ぴしぱしと尻尾でエドワードを叩きながら、アルフォンスは必死に言葉を綴る。

「迷惑?ろい、迷惑なのか?」
「迷惑だったら最初から言い出したりしないよ。」
「迷惑じゃないって。」
「あーもう!兄さんのすっとぼけ!!」

大きなロイの手がぽんぽんと子供をあやす様にアルフォンスの背中を叩いた。

「君も一緒に来なさい?エドワードと一緒の部屋でもいいし、個室にしたって全部の部屋に鍵はついているから。」
「マスタングさん…。」
「決まり!アルフォンス一緒に寝ような!」

困ったような複雑な表情の弟に、キラキラと瞳を輝かせてエドワードは笑う。

「旅は一時中止だ。ろいの所にいればリザさんにも沢山会えるよ、アルフォンス。」
「今から私の部下達を紹介するよ。皆気の良い連中だから、きっと仲良くなれる。
もしも移り住みたい家が見つかったら言ってくれても構わないからね。」

少しゆっくり考えてごらん?
ねー、とエドワードとロイは顔を見合わせて首を少しだけ傾けた。

大の大人が子猫と一緒にする可愛らしいポーズにアルフォンスもくすくすと笑い始める。

「そうだ、私も家にも沢山の錬金術の書物があるよ?当分退屈はさせないと約束しよう。」

ケーキをショウウィンドウで品定めしていた時のようにきゃあきゃあと手を合わせて喜びはじめる姉弟。
どうやら二人の当座の寝床はロイの家に決まったらしい。



丁寧なノックの音。

「失礼します、連れて参りました大佐。」
「入れ。」

かちゃりと音を立てて扉が開くと、ホークアイを先頭にしてぞろぞろと見知らぬ人間が入ってくる。
アルフォンスは隣にいた姉に抱き付き尻尾を盛大に太く毛羽立たせ、エドワードは表情も尻尾も変えず、ロイの軍服の胸元をぎゅうと握った。


「大丈夫、あの恐い顔のおじさん達は皆君達の友達になってくれるよ?」
「大佐、おじさんは酷くないっすか?明らかにアンタより年下なんスけ…ど。」


二人の子供の背を摩る上司の、かつて見た事が無い優しい表情に、一番背の高いタバコを咥えた男は言葉を詰まらせる。

「あの子供の前でも平気でタバコを咥えている無作法者がハボック少尉。」

エドワードとアルフォンスはロイの肩口にひょこりと顎を乗せ、後ろに並ぶ大人たちを見回し耳をひくりと動かした。
慌ててタバコを後ろ手に隠すハボックにきゃらきゃらと笑う。

「ハボックさん、はじめまして。アルフォンスです。」
「エドワード。猫だぞ。」
「兄さん、そんなの耳と尻尾見れば解るんじゃない?」
「お前ら面白れぇな、よろしく。」
そう言いながら、上司の両側から飛び出している小さな頭をくしゃりと撫でた。



「か…可愛いっ!!!可愛いですね大佐っ!!!」
「今目をうるうるさせて君達を見ているのがフュリー曹長だ。」
「フュリーさんはじめまして♪」
「猫だからな!」

胸を張って言う事ではないが、妙に偉そうなのがまた愛らしい。

「兄さん…。」
「よろしくね!エドワード君、アルフォンス君♪」

黒縁眼鏡の小柄な青年はソファの横で屈み、目線を合わせてにっこりと笑った。



「あそこの腹の大きなのがブレダ少尉。犬は苦手だが猫は大丈夫だったはずだ。」
「宜しくお願いします。」
「おっさん、お腹寝心地良さそうだな。」
「兄さんたらっ!!」
「今度昼寝に来い、よろしくなお前ら。」
腰に手を当てて豪快に笑う。小さな猫の兄弟は一緒にポーズを真似て皆の笑いを誘った。



「最後の一人がファルマン准尉。」
「その目、前見えるのか?」
「この馬鹿兄!!!」
「ははは、宜しくお願いします。」
兄、弟の順番で握手を求め、うんうんと頷く。


満足そうな部下達と、花を散らすように笑うエドワードとアルフォンスを二人の上官は微笑ましく見詰めていた。


「アルフォンス君、私が抱っこしてもいいかしら?」
「はいっ喜んで♪」

ロイの手をそっと外し、軽く膝を蹴って飛び上がりホークアイの腕の中に飛び込むアルフォンスに一同が凄いと歓声を上げた。
涼しくなってしまった片膝にちらりと目をやり、すぐにエドワードを見る。

「どうだい、私の部下達は?」
「あぁ、部下に恵まれてるんだなぁ、ろいは。」
「最高の褒め言葉だ。」

二人の会話に、厳つい軍人達が照れて笑い、それを見て子猫達も嬉しそうに笑う。
本来ならば殺伐とした雰囲気でもおかしくはない執務室が今は笑顔がいっぱいだった。

もうすぐ冬になるこの時期に、春がやって来た様に。

大人たちは笑顔を貰い、子供達は冬を越す暖かい寝床を得て、何故か皆が幸せな気持ち。




小さな猫たちが、旅の終わりを心のどこかに予感した、そんなある日の出来事。






END

←前編
終わらせないとと思って終わらせてみました。
panaは猫が大好きです。

pana 2005/11/23








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