猫エド子猫アルパラレル
旅をする猫 前編
※このお話しはパラレルです。苦手な方は回れ右、大丈夫でしたらこのままスクロールしてくださいませ。




















































子供が二人、イーストシティの駅に降り立つ。
帽子を目深に被り、草臥れた長めのコートを羽織た少年達は、特に目立つ訳でもなく自然に歩き出した。



至極旅慣れた風情の、しかし旅をするには幼すぎるのではないかという背格好。
それぞれ持っているトランクは随分と使い古されて、傷や色褪せが旅の長さを物語っている。

可愛らしくてくてくと並んで歩き、改札を抜けると二人は顔を見合わせてこの土地の地図を買うために駅前の書店へ足を向けた。






「おじさん、イーストシティの地図をください。」

レジの前に立つ二人の子供に書店の主人は目を遣った。
喋ったのは少し大きい方の少年。
温和そうな口調と可愛らしい声で、随分と幼いのだと察する。

「坊や達お遣いかい?偉いね、ちょっと待っていなさい?」
「はい。お願いします。」

小さいな子は弟だろうか。
似た様な赤いコートを羽織って、俯いたまま一言も喋らない。

主人は店の入り口付近の、子供たちでは絶対に手が届かないであろう段の棚から小さな冊子を引っ張り出し、レジに戻った。


「これでいいかな?」


差し出された地図は、アメストリスで一番評判が良くポピュラーな地図専門の出版社のもので、兄であろう少年は大きく頷くと財布をコートの内ポケットから取り出し支払いを済ませる。
主人は子供が大好きだったので、お遣いに来る子供用にレジの下に隠しておいたキャンディーの瓶から一掴み握り、一緒に渡してやった。

「ありがとうございます!」
「いや、いいんだよ。お駄賃代わりだ。」

にこにこと人の良さそうな笑みを浮かべて子供たちを見る。
兄は弟を肘で小突いて小さな声で「おじさんに飴もらったよ」と年長者らしく礼を促していた。
微笑ましい光景だと、子供の言葉を待ってやると、本当に小さな小さな声が紡ぎだされる。

「あ…ありがと…。」
「どういたしまして。」
「さ、兄さん行こうか。」

兄さんだったのか…。
絶対に弟だと信じて疑わなかった小柄な少年が実は兄である事に驚きはしたが、敢えてそれ以上は聞かなかった。
聞いていたら小さな子供は暴れだしていただろうから、この時点で店主は命拾いをしたのだが、その事は兄弟しか知らない事実である。

子供たちを見送ると、店の主は最近ではあまり見かけない素直で可愛い子供たちだった、と鼻歌を歌いながら積まれた本の埃を落とし始めた。
顔が帽子のせいで全く見えなかったのを残念に思いながら。




トランクを持った子供達は駅前から真っ直ぐ伸びている中央通りに面した小さな公園のベンチで先程購入したばかりの地図を広げていた。

「兄さん、イーストシティの図書館ここだ。」
「うん、でもその前に…。」
「あ、そうか…国家錬金術師の人に会うんだったね。」

二人は顔を見合わせ、楽しそうに笑いあった。


「そう、ロイ・マスタングって軍人さんだ。」











イーストシティを総轄する東方軍事司令部、司令官。
国軍大佐の地位を持ち、焔の錬金術師でもあるロイ・マスタングは今日も有能な副官の目を盗み、巡回という名目の散歩に出ていた。
平たく言えばサボリである。

ここ数日大きな事件も無く、ぐだぐだとではあったが書類もある程度こなしていたし、何より今日は天気が良い。
彼にとってこんな日は、ストレス解消にもなるデート日和。
機嫌良く街を歩けば女性達が頬を染めて羨望の眼差しを送ってくれる。
軽く目配せしたり、手を上げてやるだけでデートの相手は選び放題だ。


丁度中央通りの小さな公園まで差し掛かった頃、見目麗しい女性達に囲まれてしまった。
最初は4人程度だったのが、少しずつ増え、10分もしたら黒山の人だかり。
内心悪くは思っていないものの、目立ちすぎる現状はロイを探しに来た部下達にとって恰好の目印となってしまう。

なんとか抜け出せないかと視線を巡らせれば、旅人風情の小さな子供が二人ベンチに座っているのが目についた。
大きなトランクを脇に置き、目深に被った帽子。
大人の目からすれば家出してきたように見えなくも無い。

「申し訳ありません、美しいお嬢さん方…まだ任務の途中ですので。」

極上の微笑みを浮かべて女性達に別れを告げると、ゆっくりと道を作る。
後を追おうとまでする少数派を左手で軽く制し、ベンチまで一度も振り返らずに歩みを進めた。


「こんにちは坊や達。」


突然話しかけられたからなのか、小さい方の少年がビクリと肩を震わせる。
兄らしき子はその肩を抱き寄せ、辛うじて目の前に立った人間が見える程度顔を上げ、ぽんぽんと宥める様に手を動かした。

「兄さん、大丈夫だよ。」

その優しい声を受けたのか、小さくこくりと頷き少しだけ力を抜いた。


「軍人さん、何か御用ですか?」
「あぁ、旅人のようないでたちだったものだから、もしや家出なのではないかと思ってね?」
「ご心配ありがとうございます。でも僕達は家出してきた訳ではないのでご安心ください。」


軍人相手に怯えるでもなく、聡明に語る口調に驚いた。


「とりあえず名前だけでも聞いていいかな?」
「それは尋問ですか?」


答える気は無いのか、即座に返され困ったように笑うと、それまで一言も喋らなかった弟らしき子供が口を開く。


「気にいらねぇな。」
「ちょっと、兄さん!」
「兄さん?………君が兄さん?弟ではなくて…。」

「言いやがったな…。」

「あ、ちょっと!軍人さん逃げて!逃げてください!!」
「何?どうしたん…」
「だぁぁぁれが豆粒どちびかぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」


全てを言い切る事はできなかった。
パチンという手を叩くような音の直後、目の前で弾ける光、見覚えのあるそれは間違いなく練成光で、その巨大さと個々が持つ色の美しさに目を奪われたのだ。
何が起こるか判らない練成に、とりあえず後ろに飛んでその場を離れる。

光が消えた後には大きく隆起し、変形しきった公園の道路。
突き刺さんばかりの突起は全てロイが立っていた場所に切っ先を向けていた。

表情こそ変えないが、背中に嫌な汗が伝う。

地面についていた膝を立たせ体制を整え、元凶であろう子供達の方を見れば、じたばたと暴れる兄(?)を羽交い絞めにする弟。

「君ねぇ、こんな公園の真ん中で危険な事をするものではないよ?」
「うるせぇ!テメェが失礼な事言ったんだろが!!」
「兄さん!いい加減にしてっ!」

弟の言葉だけは素直に聞くらしく、しゅんと黙り込んでしまった。

しかしやはりそれだけでは気が済まなかったらしく、一瞬ロイを睨み据える。

「―――――!!」

帽子から垣間見えた瞳は零れんばかりの大きさで、少々きついアーモンド型、それはきらきらと光を返し金色に輝いて見えた。
抜けるような白い肌、嫌味なく通った鼻筋、小さな赤い唇、それら全てがバランス良く配置され人間であるとは思えない程。

そのあまりの美しさに惚けていると、すぐに帽子をおろし顔を隠されてしまった。

少年はふいとこちらに背を向け、弟と一言二言会話を交わすと、おもむろに両手を広げ胸元でパンと合わせた。
再び練成光が周囲を包み込む。
眩しさに目を細めると、みるみる内に公園が元の形に戻っていくのが確認できた。


「練成陣なし…か?まさか…。」


周囲を見ても陣を形成した痕跡は一切無い、ましてや今の今まで見つめていたのだから、両手を合わせる以外の動作が無かったのはロイが一番良く解っているはずだ。

子供の肉体から弾き出された錬金術は、その器に見合わぬ巨大な規模で下手な錬金術師であったならば、リバウンドでも起こしかねないものだった。
それをいとも簡単に行った挙句、どこ吹く風、と何も変わらない風景を醸し出しベンチに腰掛けている二人に驚愕は隠しきれず、ロイの同じ錬金術師としての興味が激しく揺り動かされたのだ。

(面白い…。)


「兄さん、本当にもう止めてよね!その度直すのだって大変なんだしさ。」
「わりぃ。」
「改めてよろしいかな?」


兄弟は二人の世界に入っているようだったが、なんとか軍部まで連れて帰ろうと試みる事にした。


「私の名前はロイ・マスタング。見ての通り軍人だ。」


不審気に身を引いていた子供達が動きを止める。
同じ錬金術を嗜む者であったら、知らない人間のほうが少ないであろう名前だったから。
ましてや兄弟にとって、この街に来た一番の理由がこの男に会うというもの。
自分達の運の良さを喜びつつ、確認のために復唱してみた。

「ロイ・マスタング?」
「そうだ。知っているかい?」
「焔の錬金術師の?」

こくりと頷いた男を良く見ようと、兄と呼ばれる小さな子供はそっと帽子に手を掛けた。

「兄さん!だめ!!」
「アル…だって良く顔みたいんだもん。」

帽子を外そうとしたら、酷く慌てて止めた弟。その行動には一体どんな意味があるというのだろうか。
ふと真顔で見つめていた自分に気付き、ロイは慌てて人好きのする笑顔と声で語りかけた。


「どうだい?私はお兄さんの行った練成に興味がある。もし良かったらこの後私とお茶でもしないかね?」
「する!ご馳走してくれるのか?」
「兄さんたらっ!」
「勿論だとも。美味しいケーキもつけよう。」

ケーキという言葉に兄を窘めていた弟も反応した。

「ケーキ!」
「兄さんケーキだって…一度食べてみたかったんだよね。」
「ケーキを食べた事がないのかい?」

こくこくと頭を縦に振る兄弟は動きがシンクロしてとても可愛らしい。
これで表情が見えたら、と残念に思いつつ、しかし自分の思惑だけは成功した事に満足すると二人を促して大通りへ歩き始めた。


なんらかの理由で人前では帽子を取らない兄弟。
喫茶店などでは落ち着いて話もできなければ、一瞬だけだったとは言え美しいと感じたあの顔が見られない。
手近で美味しいと評判のケーキ屋に立ち寄りテイクアウトする事にした。


「うわぁ…やっぱり綺麗だね!」
「うん…俺迷っちゃう…。」


ショウウィンドウにぺたりとくっついてケーキを品定め。
きゃあきゃあと子供らしい声に、思わず笑顔が零れた。

「何個でも買っていい、選んでしまいなさい。」
「ほんと?」
「すっげー!さんきゅ、マスタングさん!!」

兄弟はそれぞれ3つずつ選び、一口ずつ交換の約束をして店を出た。
ケーキ屋のバイトであろう少女が始終頬を赤らめていたが、今はそんなことどうでもいい。
一分一秒でも早く東方司令部へ。









行きは窓を使い壁を乗り越えたが、帰りは正面門から入る。
入り口を固める憲兵に目配せすると、敬礼と共にそのまま中へ通された。


「私の執務室でいいかな?こっちだ。」


二人はまるで借りてきた猫のように神妙な面持ちで後ろを付いて来る。
階段を上がり、司令室を突っ切り執務室まで辿り付く間、場に合わない子供を奇異な目で見る軍人達に恐怖を抱いたのだろうか。
全て無視して子供達を守るように後ろに回りついて歩けば、待ってましたと言わんばかりの副官が銃口をこちらに向けて待ち構えていた。

「お早いお帰りですね、大佐。」
「待ちたまえ中尉、お客人だ控えてくれ。」

サボリ癖の悪い上司を睨みつけていたせいか、遥か下にある二つの頭に気付かなかった。

「失礼しました。ごめんなさいね?驚いたでしょ…。」
「…い、いえ。」

相変わらず喋らない兄と、震える声で、それでも返事を返す弟に苦笑し、上司が持っていたケーキを受け取る為に近付いてくる。

「ココアでも入れてやってくれ。」
「はっ。」

軍人らしいきびきびとした動きで給湯室に向かった部下を見送り、兄弟と執務室へ入った。


扉を閉めても動こうとしない二人に、ロイはソファを勧める。
どこかおどおどとしながらも、ふかふかのそれに腰掛けたら、子供らしさを取り戻したかのように2〜3度腰を浮かしては沈め柔らかさを楽しんでいる。

「さて、君達…。まずは部屋に入ったら帽子を取るのが礼儀ではないかね?」

「「!!!」」

「できれば自己紹介も頼むよ?私はもう先程済ませたからね。」


兄弟は顔を見合わせてぼそぼそと話し始める。
何の話だかは聞こえてこないが、帽子を取ってはいけない理由についてであろうと予想した。
兄の提案に弟が頷き、話しは纏まったようで顔がこちらへ向く。


「マスタングさん、僕達人間じゃありません。」

「は?」


兄がゆっくり帽子を外す。

「エドワード・エルリック。猫だ。」

弟も兄に習って同じように外した。

「アルフォンス・エルリック、猫です。」




ぴょこりと帽子から飛び出したのはそれぞれの髪の毛の色と同色の猫の耳だった。
似たような仕草でコートを脱ぐ。
尾てい骨のある場所にはやはり同色の長い尻尾。

「猫?何を言って…。」

「だから猫なんだって。」

先程見蕩れた金色の瞳と同じ色の髪。その頭の上には玩具などではありえない動きをする可愛らしい猫耳に、動くよと見せ付けるようにエドワードの腕にぺたと巻きつく尻尾。どう見ても人為的なものとは思えず、口元を抑え息を飲み込んだ。







後編→
急に書きたくなった猫ちゃん物語。
多分後編で終わる予定。

pana 2005/11/23








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