エド子連載系
Romanticが止まらない act.9





「あれ?兄さん寝ちゃったんですか?」

図書館で時間を潰し東方司令部に戻ると、僕の想像通り姉さんは執務室のソファで眠っていた。
安らかにすーすーと寝息を立てるその表情はいつもより柔らかくて、ほんの少しだけ僕の心をちくんと痛める。

でもいい。姉さん気持ちよさそう。


「ああ、アルフォンス君おかえり。」

微妙違いなんだけど、大佐の挙動が不審。
もしやと思ってかまをかけてみた。

「良く眠ってますね…大佐…?」

「あ、ああ眠たそうだったからね、アルフォンス君には悪いと思ったんだけど、その…。」

キスしたんですね?

「いいんです。ありがとうございます♪」

「あ?あ…あぁ。」

ぽかんとして僕を見るから、笑ってしまう。
嬉しくて、少し寂しくて。
鎧の姿でよかったって思った。


「兄さん可愛いと思いませんか?」
「そうだね。まさかあんなはねっかえりの鋼のにこんな可愛い所があるなんて驚いた。」
「そうですか?…………あぁ、そうですよね。うん。」
「?」


大佐本人に気付いて欲しい。
姉さんの可愛いところ、もっといっぱい。『姉さん』だから可愛いんですよ。

こんな事考えているなんて姉さんが知ったら怒り狂うんだろうな。


「大佐、兄さん寝るとおへそを出しちゃう癖があって…。」
「ほう。子供みたいだな。」
「子供なんですけどね。」

くすくすと声を立てて笑うと、「そういえばそうだったね」なんて一緒に笑ってくれるから少し安心した。


女だけど、子供だけど、咎人だけど、こんな僕みたいなお荷物を抱えているけど、面倒臭がらずに姉と向かい合ってくれないだろうか。


「そうだ、アルフォンス君、今夜も3人でディナーへ行かないかい?」
「いいんですか?毎日…お忙しくないんでしょうか…なんだか気を使って頂いているようで申し訳なくて…。」

そう言うと大佐は笑みを深くして僕を真っ直ぐに見つめ返す。

「鋼のが起きている時は遠慮なんかしないのに、君は本当にお兄さんが大事なんだね?」
「え…っと。」

「私は迷惑だとか気を使ってるだとか感じた事も思った事もないのだよ?
むしろ君達と話をしたり食事をしたり、そんな時間がとても楽しくてね。
なんと言おうか…、初めてなんだ。他人とこうやって過ごすのを自分から望むのは。」

「そう…なんですか?」

「そうだ。」

嬉しかった。大佐は僕を含めて言ってくれている。
言ってしまおうか、ああでも、もっとゆっくり。

きっと兄さんは驚いてしまうだろうから。

「じゃあ、遠慮なく。今夜の食事も楽しみにしています。」
「そうしてくれたまえ。」
「僕、何かすることないか聞いてきます♪」
「すまないね、頼んだよ?」
「はい!」






僕は執務室を後にした。
今日の夜、どうにかして二人きりで食事して貰う理由を探す為に。








司令室に行けばいつものメンバーが各々の仕事を片付けている。
丁度ハボック少尉がダンボールの山から一つだけ抱えて出て行こうとしている所だった。

「少尉、僕何かお手伝いしましょうか?」
「おお!まじか♪じゃあさ、これを資料室に運んで整理するの手伝ってくんないか?」
「喜んで!」

身体が大きいのはこんな時に役に立つ。
僕はダンボールを二個抱えてハボック少尉についていった。

司令室を出る時、ホークアイ中尉が僕の肩を触ってくれて…。

「ごめんなさいね?お手伝いなんかさせちゃって…。」
「あぁ、僕がやりたくてやってるんです。お気になさらないで下さい♪」
「ありがとう…。」

本当に嬉しそうに微笑んでくれるから、僕はなんだか照れくさくてそんな気持ちを誤魔化すようにぺこりと頭だけ下げて少尉の後を追った。


全部運び込み終わった資料室はダンボールで歩く場所も無いくらいになってしまい、僕と少尉は少しだけ途方に暮れて顔を見合わせ笑う。

「これを明後日までに整理するんだってよ、うぇーげんなりだ。俺は泊まりだな。」

僕はピンと背筋を伸ばし、まるで用意されていたかのようなシナリオに尻尾を振って食いついた。

「手伝いさせて下さい!僕は眠らないし、一人より二人の方が捗りますよ♪」
「お、おい…そりゃあ助かるけどさ、これは俺の仕事で…。」
「いいんです。僕がやりたいんです!大佐には僕から話しますから…だめですか?」

ふむん。と咥えていた火のついていない煙草を一回揺らして、少尉は僕の頭をがしがしと撫でる。

「何企んでんのか知らねぇけど、まぁいいや。助かる。ありがとな?」

にぃ、と歯を出して笑う少尉に心の中でお礼を言った。
以外にも勘の鋭いこの人は、それでも包み込むような優しさを持っていて、もし本当に『兄』がいたならこんな感じなのかな?などと想像するのも楽しい。
多くの人々に忌み嫌われる軍という存在の中に、たまたま飛び込んだ僕達の居場所がここなのはなんでだろう。
きっと軍の中でも異端のようなこの人たちはこんなにも人好きで優しい。

僕は本当に嬉しくて、なんだか心が温かくて、この短い時間の中ですっかりこの人達が大好きになってしまっていたのだ。



ねぇ姉さん、大佐だけでなく、この人達なら本当の事を言っても貴女を支えてくれるんじゃないかなぁ?





















俺はアルフォンスと大佐の声で目を覚ました。
なんだか心地良い二人の会話、声。


「そんな訳で、僕ハボック少尉のお手伝いをしようと…。」
「迷惑ではないのかい?あいつめ…」
「そんな事ないです、僕がやりたいって言ったんですから!」
「そうかい?じゃあ今夜の食事は鋼のと二人きりだな。」
「お願いします。」


ん?食事?二人きり?
ちょっと待て!意味が判らないっつーかなんで今夜の約束を俺が知らないままお前等だけで進めてるんだよ!

俺は勢い良くソファから身を起こすと…起こすと………起こすと?


「あれ?」


突然起き上がった俺の第一声。
二人はきょとりと俺を見つめている。

てか待てよ、俺はなんでここで熟睡してるんだ?確か食事から帰ってここで本を読んでたはず。
帰り際にアルフォンスは図書館に向かっていていなかったし…。

腕を組んで考え込む俺の意識を戻したのはアルフォンス。

「兄さん、どうしたの?」
「ちょっと待て弟よ、今兄さんは不可解な現象を色々と考えなければいけなくてだな…。」

ふと周囲を見回す。
ここにいたのは俺と大佐。

ん?

「アルフォンス、何で俺はここで熟睡してた?」

こんな時は直球に限る。
アルフォンスは何か問題でもあるの?とでも言いたげに小首を傾げて問いに答えた。

「そんなの、大佐が兄さんにキスしてくれたからに決まってるでしょ?」
「あ、アルフォンス君!!!」
「大佐ぁ〜?何で大佐が?」
「僕が教えたんだもの。」
「ぶっ!」


至極当然に言われると返す言葉に困るよアルフォンス…。
俺は額を押えて溜息をつく。


「あー、ってことはあれだ…眠そうだった俺に大佐がキスをしてくれたんだな?まぶたに。」
「そうそう♪すっごく良く寝てたよ兄さん。」


へー…。
ってくぉらぁぁぁぁ!
顔が恥ずかしさで熱くなる。
あんな子供じみた癖をよりによって大佐に知られてしまってたのか?

ちらりと見ると俺の青くなったり赤くなったりする顔を困ったように黙って見つめる大佐。
くそう、まっすぐ見られねぇ…。

「だって兄さんの不規則な睡眠を僕がいない間にとらせてくれるの大佐しか思い浮かばなかったんだもん。」
「そ、そういう問題じゃないだろ?」

仮にも俺は女なんだから…。

「迷惑なら、もうしないよ?すまなかったね…。」

「や、そういうのともちがくて!」

慌てて両手を振る。
なんでちょっと寂しそうなんだ大佐?

「じゃあしても構わないのかい?」
「は?……あー別に瞼くらいなら…。」
「良かったですね大佐!」
「何言ってる?アル!」


もう意味わかんねぇ…。
頭はごちゃごちゃになって他にも考えなきゃいけない事があったような気がするのにどうにもならない。

俺の知らない間に何が起こってる?
てか俺ないがしろか?

とりあえず落ち着け俺、でなきゃ話が全く見えない。






「大佐に俺の癖を教えたのはお前なんだな?アル。」
「うん、そうだよ♪」

あんらまぁ、とんでもなく明るいお返事。
非難の視線を物ともしない。こんな時アルの図太さを垣間見るよな。

「で、大佐は俺にキスしたのか。」
「そうだ。」

至極単純明快なお返事ありがとうございます。

「何を言われたのか知らねぇけど、男の俺にキスなんて気持ち悪いだろ?無理することねぇよ。」
「無理?アルフォンスに教えて貰ったのは確かだが、初めてした時から自分の意思だよ。」
「はい?それは…今日が初めてじゃないって事か?」
「2度目ですよね?大佐。」
「そうだね。」

うんうんと頷き合ってる二人。
どうでもいいけどお前等何時の間にそんなに仲良しさんになった?

「何時だ?」

殺気を漲らせて問うと、少し慌てた仕草でアルが答える。

「この前の歓迎会の帰り…かな?」

アハハ、とか乾いた笑いはいらないよアルフォンス。

「大佐、あんたの誑し根性は少年にも有効なのか?」
「いいや?君限定のようだよ。」
「訳わかんねぇっ!!」
「本当ですか?大佐っ…やったね兄さんモテモテ〜♪」

頭痛い。

「アルフォンス、何を企んでる?」
「人聞き悪いよ兄さん!僕は単純に大佐だったら兄さんを預けてもいいかなって…。」
「おや、アルフォンス君公認の仲だね、鋼の。」
「んなもんは必要ないっ!!!てかアンタも微笑むなっ!」
「とにかく、僕は今から少尉のお手伝いに行くから、兄さんはちゃんと大佐と晩御飯食べておいでよねっ!」
「ちょっ…待てアルっ!!!」


高らかに足を踏み鳴らして執務室を出てゆく弟を、俺はどうしたら良いのかも判らずに見送った。
この場合キレて出て行くのは俺の仕事だったような気がするんだけどな…。


「あー…大佐、弟がごめん。」
「うん?」


すっかり二人の口論で蚊帳の外だった大佐も何かを考えていたようで、顎を手で擦ってた。


「いや、アルフォンス君は悪くないから謝る必要はないよ。私の意志だ。
さぁ、鋼の…食事に行こうか。」
「えっ?ちょ……!」


俺は強引な大佐のエスコートに流されるように司令部を後にした。

ぐるぐると回る頭の中。錬金術の事だったらもっと容易に結論出せるのになんでこんなに難しい?
アルの言葉、大佐の反応、俺の気持ち…
どれもが噛みあっていないようで微妙に交錯する。




アル、お前の考えくらい俺には判ってるよ。
でもなんで大佐なんだ。
確かに俺達に優しくしてくれるし、バックアップもしてくれる。
道を指し示してくれた恩人でもある。

でもこれ以上迷惑かけたくないんだよ…。

それくらいお前だって考えたはずだろう?







―――――――――― ねぇ、アルフォンス。





/
ずるずる続きますが次で展開があると思われます。
えぇ、だって二人でデート(?)ですからね☆
頑張れ増田!君だけがこのサイトで案外マトモな増田なんだっ!
良く見たらこの章だけ二話分くっついてる気がします(笑)

pana 2005/10/27








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