| エド子連載系 Romanticが止まらない act.6 |
店内に入ると今までの態度が嘘のように礼儀正しく席についてくれた。 ごくごく普通の四角いテーブル、私の正面にアルフォンス、その隣に鋼の。 「ご注文お決まりでしょうか?」 可愛らしいオレンジ色のギンガムチェックのエプロンをしたお嬢さんがオーダーに来る。 「私は日替わりランチにしようかな。それと食後にコーヒーを。」 「畏まりました…。」 頬を染めるのは普通の事。私がそうさせているのだ。 条件反射のように浮かべられる、女性に対してだけの笑顔は時折モテない男共に『胡散臭い』などと評価されるが、実績が伴っている分負け惜しみにしか聞こえない。 「俺クリームシチューのランチセット。オレンジジュースつけてください。」 「ああ、オレンジジュースは二つにしてくれ。料理と同時で頼む。」 「以上でよろしいですか?」 ウェイトレスは料理を一度復唱して厨房に下がって行った。 「あ、あの大佐…僕は…。」 空洞の鎧に魂を定着してある弟は食事も水分も必要としない。 痛みや感覚も無いらしい。 「一人で何も食べないのは寂しいだろう?気分だよ、気分。」 「大佐…。ありがとうございます…。」 心なしか嬉しそうな声をしている。子供っていうのは結構単純で可愛いものだな。 「鋼のがジュースを飲み終えたらグラスを交換すればいい。」 そうだろう?と目線をエドワードに滑らせると、私を見ていたのか少しぽかんとした顔をしていたが、目が合った途端花が綻ぶように微笑んだ。 胸がドキンと高鳴る。 まぁ滅多に私に対して笑ったりしない子だから、何の心の準備も無く極上とも言える笑顔を見せられて戸惑っただけだと思う事にした。 雰囲気が急激に和らいで、私たちは料理が来るまでの間楽しく錬金術談義をした。 私の知らない知識と彼らの知らない知識、それを交換し合うのはとても有意義でこんな時間なら女性とデートするより楽しいかもしれない、なんて私らしくないことを考えてみたりもする。 国家錬金術師となったエドワードは当然ながら、その天才的な知能を持つ兄とほぼ同等に渡り合っているアルフォンス、もしも彼が生身であったならやはり国家錬金術師に推薦しただろう。 「大変お待たせいたしました。」 先程のウェイトレスが注文をトレイに乗せて運んできた。 私の目の前には白身魚のムニエルとライスとスープ。エドワードにはホワイトシチューとパン。そしてエドワードとアルフォンスの前にオレンジジュース。 小さな兄は手をつける訳でもない弟のジュースに、ストローを挿してやった。 「ありがとう、兄さん。」 「良かったな、アル。」 なんともいえない優しい空気に、思わず顔が綻んでしまった。 「さて、食べるとしようか。」 遠慮させないように先にスープスプーンを持って促す。 すると彼らは、まるでそうするのが当たり前のように胸元で手を重ね祈りを捧げ始めた。 錬金術師は科学者なので、本来神を信じる者は少ない。 目を瞑って神に祈るなんて馬鹿馬鹿しい事、それは例外なく私自身の考えでもあるのだから。 「君たちは…神を信じているのか?」 既にスプーンを持ち、口にシチューを運び始めていた兄に代わって弟が口を開く。 「いいえ。母の影響でしょうか…食事の際には欠かしませんが、神に祈っている訳ではないですよ?」 「形だけって事かね?」 「僕達はこの姿になってから一度たりとも神にお祈りをしたことがありません。」 それはそうだ。父の失踪、母の死、片手足の喪失、魂だけになった鎧の身体。 神が祈りを聞き届けていたら、きっとここには座ってなどいなかっただろうに。 「感謝です。」 「感謝?」 「そうです、この食材を作った人に、料理をしてくれた人に、運んでくれた人に、今ここに座っている事に感謝してるんです。」 考えてもみない事だった。 神に祈ることを辞めたこの兄弟は、自分達を取り巻くものへ感謝を捧げているのか。 食事に専念していたエドワードがぽつりと口を開いた。聞こえるか聞こえないかの声ではあったが。 「アルにジュースを注文してくれたアンタにも…。」 何事もなかったかのように俯いて食事を再開した、彼の耳がほんのりと赤くなっているのが見えて何だか照れくさくなった。 恨み、妬み、嫉妬、錬金術への畏怖…そんなものとばかり隣り合わせて生きてきた自分に、感謝だなどと。 「僕も、大佐に感謝を。」 少し顔が火照っているから、赤くなっているのだろう。 隠す事も忘れ、私は彼らに困った顔のまま頷いてみせた。 彼らと別れて司令部へと戻る帰り道、何故だか風景が明るく見えた。 今までがガラス一枚隔てていただけのような、そんな些細な違いだったが。 彼らを甘やかせてあげるのも悪くない。 これからあの兄弟が何年かかって身体と手足を取り戻すのか。 それまでは常に私の庇護下にある。 追い求めるモノは生半可な覚悟で手に入れられるものではないし、時間もかかるだろう。 あの日、リゼンブールへ行ったのが私で良かった。 忌々しいとさえ思っていた薄っぺらい書類不備の紙に感謝をしたら、自分が想像する近い未来が、今目の前に見えている景色のようにほんのりと明るくなった気がした。 ← / → |
| ほんわか兄弟大好きになっちゃった大佐のおはなし。 pana 2005/10/15 |