エド子連載系
Romanticが止まらない act.5





妙に清々しい朝だと思った。(気のせいか瞼が微かにヒリヒリと痛むが)
普段ならずるずるとベッドの上で唸り、弟に揺すられようが多少殴られようが確実に寝惚けているはず。
アルフォンスが開けたのであろう窓からは心地よい光が差し込んで、小鳥の囀りまで聞こえてくる。
(眠りが深かったのか…?)
と疲労のせいか曖昧な頭を巡らせてみても昨夜の打ち上げを抜け出たところまでしか明確な記憶が無い。

「アル、おはよう。」
「あぁ、おはよう兄さん。良く眠れた?」
「う…ん…結構スッキリ?」

「そう、よかったね」と可愛らしく首をかしげれば、エドワードも釣られて一緒にかしげ、えへへと笑う。
昨夜の帰りの事を考えているのが解ったのかアルフォンスは自分がおぶって帰った事、ロイが送ってくれたこと、今日も東方司令部に顔を出すこと、資料室の鍵を貸してもらえる事などを簡単にエドワードに告げた。

銀時計を開いてみると時間はもうすぐお昼を指していて、僅かな空腹を脳が受け止める。
ばさりとシーツを包まっていたシーツを避けて顔をシャワーを浴びるためにベッドを立った。



少し温めに調節してシャワー浴びる。
宿屋の浴室のシャワーは正直湯量に乏しいところがあるが、普段からあまりそういったことに興味を持たないエドワードにはどうでもいいことだ。


「兄さん!たまにはちゃんとシャンプーとトリートメントくらい使いなよね!せっかく買ったのに〜。」


小姑然としたアルフォンスの声が風呂の扉から聞こえてきたが無視。


「そんなゴワゴワだとウィンリィに殺されるよ!!!」


ぞくりと脳裏に凶悪なスパナを思い浮かべ、仕方なくリゼンブールで幼馴染に小分けにして無理矢理渡された小さな容器に手を伸ばした。


固形石鹸とは違うなめらかな泡立ちは実は嫌いではない。
終わった後の残り香も好きだ。
「でもめんどくせぇんだよ、出すのもしまうのも、それに…」

ぼそりと一人ごちてトリートメントを丹念に髪に塗りこんだ。
無論蒸しタオルなんてしないで即効で洗い流す。
それだけでも普段とは全く違うしなやかな手触りになるから不思議だ。



風呂場からバスタオルを巻いただけで出てくると、洗面台についているドライヤーで乾かした。
ふわふわと風に舞う髪。

こうなると厄介なのだ。エドワードの髪は純直毛で細いために紐が滑ってしまい結う事ができない。
だから普段から髪には頓着しないようにしていたのに、今日はどうしたらよいのだろうか。

「あーる!髪結べないぞー!」

ガシャガシャと音をさせながら鎧の弟が覗き込む。

「あー、ほんとだ。姉さん綺麗だねぇ(うっとり)」
「お前…ボコられたいのか?」

手元にあった洗面台の石鹸をアルに投げつけると身軽に避けられてしまった。

「ちっ、石鹸くらい避けんなケチ!」
「兄さん凶暴!」

結局どうしても編み込む側から解けてしまう三つ編みを諦め少しだけ濡らして少し高めの位置でポニーテールにする。
姿見の前に立って黒のジャケットを羽織り、きちっと止め具を嵌めて一回転。

「よし、どっから見てもナイスガイ。」
「アハハ…(汗)」

軍の食堂は安くてそこそこ美味しいという評判を耳にしていたので、今日の昼食は中央司令部についてからという事になった。













「兄さん、なんか人だかりができてるよ!」
「んぁ?」

宿を後にし、まっすぐ中央司令部まで向かう道。
アルが指す方角を見てみるとキャーキャーと随分騒がしい一団がいた。

「なんだアリャ?」
「あ。兄さん、人だかりの中心にいるの…マスタング大佐みたいだよ。」
「ハァ?」

はっきり言って何も見えない。エドワードにとっては唯の黒山の人だかりなのだ。

「ちっ!アル抱き上げろ、見えねぇ!!」

ひょいと右腕に座るように抱き上げられ、やっと視界が高くなる。

「やっぱ俺は小さいのか…」
「兄さん…」


はぁ、と溜息をついてちらりと目線を投げると、女性にちやほやされているロイの姿があった。
詐欺師も裸足で逃げ出しそうな胡散臭い笑顔を振りまいている。

「うぇ…なんちゅーキモい笑顔なんだ…あれに女は騙されるのか?」
「モテモテだね、羨ましいなぁ…」
「こら!お前はあんなんなっちゃだめだぞ!」
「えー!」
「元に戻ればあんな顔しないでもお前のほうがモテるに決まってる!」
「兄さんったら親の欲目みたいな事…。」

やめてよね!なんて言いながら、やっぱり大好きな姉に褒められるのは嬉しくて早く元の姿に戻りたいと思ってしまう。
エドワードも決意を固くしたように抱き上げてくれているアルの頭をぎゅっと抱きしめた。


「兄さん、大佐僕達に気がついたみたいだよ?」


何やら軽く手を上げながら道を空けてもらっているようで、女性達の残念そうな声が耳に入ってきた。
あくまでも詐欺師スマイルを崩さず、こちらに向かってくるロイはきっちりと軍服を着ていた。

「やぁ鋼の、アルフォンス君。」
「こんにちは、マスタング大佐。今から司令部に向かう所だったんですよ。」
「その顔やめろ。キモイ。」

心底嫌そうに顰めているエドワードに苦笑して、ロイは髪をかき上げた。

「昨日はおんぶで今日は抱っこかい?可愛いお兄さんだね、アルフォンス君。」
「誰が赤ちゃんみたいに小さいハイパーどちびかぁぁぁっ!!!」
「ちょっ、兄さんそこまで言ってない!」

抱かれている腕を蹴って飛び掛ろうとしたがアルに強く抱きこまれ攻撃できずに終わった。
離せと足をばたつかせても、体格差だけでなく元来力では及ばない弟にぐったりと力を抜かざるおえない。

「アンタ堂々と仕事サボってないで司令部帰れ!」
「サボっている訳ではないよ?今は昼食を食べに来たんだ。そう、君達もまだなら一緒にどうだい?ご馳走しよう。」
「わぁ!ご馳走様です大佐♪」
「アルっ!勝手に決めんな!!」
「いいじゃない、美味しいもの食べられるんだよ?」

再び暴れ始めるエドワードを軽く遣り過して抱く体勢を整えるアル。
強気な兄も弟には適わない、力関係があるようだ。
ロイはふむ、と顎に手を当てて少し考えた後、おもむろに両手を伸ばした。
何をするのか判らず一瞬力を抜いた隙にヒョイとアルの腕の中からエドワードを取り上げ、同じように抱き上げる。

「「なっ!!!」」

盛大に暴れ始めるエドワードの殴りかからんばかりの拳を抱っこしたままの至近距離からかわし、涼しい顔で歩き始めた。

「行こうかアルフォンス君」
「あ、…はい。」
「おーろーせー!!!!!!」


引き剥がそうと腕に力を入れて突っ張っても、さすが軍人と言える力で押さえ込まれ疲れて力尽きるまでその攻防は続いた。
アルフォンスは顔を真っ赤にして怒り狂う兄と、至極楽しそうなロイの姿を三歩後ろから黙って見つめ後を追う。


(僕なんか昨夜から墓穴掘ってる気がする…)


暫く肩を落としてついていったアルは、兄を取り戻すべく前を向いた。

「綺麗な髪だね、鋼の。この髪型もとても良く似合ってるよ?」
「ぐわー!匂い嗅ぐんじゃねぇっ!!!!」


エドワードの髪に鼻先を押し付けて囁いているロイを見て、怒りに震え走り出す。
何この人!兄さんが女だって気付いてるの??

「兄さん!!」

ロイの腕からエドワードを引っ手繰るように取り戻すとぎゅうぎゅう抱きしめた。

「アル?あるっぐるじ…」

ここで怒ったりしたらもしバレてなくても何らかの引き金になりそうなので、ロイに文句は言わない。
心の中で呪詛を繰り返し唱えながら、腕に戻ってきた姉に安心して腕を緩め地面に下ろしてやった。

「大佐、兄さんをいじめるのはやめてください。」
「あ…あぁ、すまなかったね。」
「げほっ…お前ら人を何だと思ってやがるんだ!ったく!」

相変わらず飄々として何を考えているか判らない笑顔のロイをアルは困った顔で、エドは怒り狂った顔で見返していた。

「ちなみに店、ここなんだよ。」


なんだかかんだと目的地に到着した所は小ぢんまりとしたオープンテラスのあるレストラン。
ロイが当初女性達に囲まれていたせいか存外に悪目立ちし、注目を浴びているのにやっと気がついて3人は黙って中へ入っていった。





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