エド子連載系
Romanticが止まらない act.10





こうやって大佐と二人きりで歩くのは今日二度目。
時々ぽつぽつと話し掛けてきてくれて、歩く速度は俺に合わせてくれて、なんだかくすぐったいような気持ちになる。


ぼんやりとした頭の中をぐるぐる回るのはアルフォンスの意味深な行動のこと。
俺よりも後からここへ来たアルフォンスが、俺より先にここに慣れ親しみ、信用して俺を託そうとしている。
どうして二人じゃいけないんだろう。

確かに大佐もその部下達もとても心安く信頼に足る人たちだと思う。
でも俺達が背負っているものは、あまり深入りし過ぎると関わった人たちに後々害を及ぼすかもしれない。
それだけの罪を犯したのだから。

それでも心のどこかで、優しくされたい、好かれたいと思ってしまう自分がいて、余計に頭を悩ませるのだ。







「鋼の、何が食べたい?」
「んー、美味ければなんでもいいや。」
「一番難しいね…。」

くすくすと笑いながら俺の言葉を嬉しそうに聞く大佐。
薄暗い夕暮れと夜の境目の風景を酷く穏やかに見せた。
居心地が悪いような、心地良いような不思議な空気。





リゼンブールの夜は本当に真っ黒で、電気を消すと隣で眠るアルフォンスの顔すら見えない程だ。
その所為か、星空は宇宙に数え切れない程の星があるのを教えてくれたし、月明かりが照らしてくれる光が優しく包み込んでくれる感覚を身をもって知っている。
この街は夜でも道を街灯が煌々と照らし、夜という気がしない。
幼い頃は恐怖の対象だった暗闇を、今は懐かしいとさえ思っていた。
ホームシックってやつだろうか。

あんな事を思ってしまったのはそのせいだ。






「じゃあ昼間パスタだったから、今度は美味しい魚介料理の店でも行ってみようか?」

ふと視線をよこした大佐に釘付けになった。ぼうっとしていたせいもあり、視線が動かせない。

「どうしたね?私の顔に見蕩れているのかい?」
「んー、いや見蕩れるっていうか。」

大佐の軍服の袖を引っ張り、傍まで寄せる。

「大佐、ちょっと屈んで。」
「あぁ…?」

視界一杯大佐になった。
ああ、やっぱり。
じっと瞳を覗き込む俺に居た堪れなくなったのか、腰を伸ばそうと身じろいだので今度は胸元を掴んで引き寄せた。

「動かないで、良く見せて。」
「なんだい?照れるよ、そんなに見詰められたら。」


「綺麗…。リゼンブールの夜の闇の色だ。」

「ほう…それは…。」


光栄だね。と微笑んで、俺の身体を子供みたいに抱き上げる。

「私は歳だからね、腰が痛くなってしまう。これなら良く見えるだろう?」

逆らわずに大人しく抱かれている俺の背中を空いた右手で優しく数回摩って、ぎゅっと胸に閉じ込めた。

「君の瞳も私の生まれた故郷の月の色のようだよ?」

「うぇ…。」


肩口にこてんと頭を寄せれば、耳がぺたりと大佐の軍服にくっつき、少しだけ速い鼓動が伝わってきて俺を驚かせた。


「大佐、どきどきしてる。」

「そうかい?困ったね…。」

「変なの。」

「本当だね。」


視線を上げれば瞳と同じ暗闇色の髪、薄暈けたイーストシティの夜との境界線。
安らぐ色だと思った。安心して抱っこされてていいんだって。

やっぱりまだ俺は子供なのかな…。


「鋼の、そろそろ大通りだがどうする?」
「…んー?」
「私はこのまま抱いて行っても良いんだがね。」
「!!!」


ふと頭を進行方向に向ければ、ネオンと街灯で明るく照らされ賑わう夜の街。
冗談じゃない!

「おりる!大佐おろして!」

手足をばたつかせ、無理矢理飛び降りた。

「暖かかったのに、残念だ。」
「うるっせ!恥ずかしいっての。」


真っ赤に火照った顔を見られたくなくて勢い込んで歩き始めると、左手を凄い力で握られて身体が後ろに傾いだ。


「ちょっと!離せ!!」

「君、こんな雑踏の中じゃ迷子になるじゃないか。手ぐらい繋がれていたまえよ。」

「小さいって言いたいのか?そうなのか??あぁ?」

「そういう意味ではないと完全には否定できないけど、まぁいいじゃないか。」

「くそっ!」


先程うっかり甘えてしまったのもあって、どうにも振り切る事ができなかった。
仕方なく少しだけ握り返してみれば、自分よりも遥かに大きな大佐の掌は指先を少し曲げる程度にしか掴めず、『手を繋ぐ』と言うよりも包み込まれているようで、余計に頬が熱くなった。


「この間も思ったのだけどね。」

急に話しを振られて、顔を上げる。



「君の身体はとても柔らかいね、まるで女の子のようだ。」

「――――――!!!」


明らかに動揺してしまったのが掌から伝わってしまっただろう。
身体はざぁ、と血の気を引かせ、それなのに汗が噴き出した。
手袋越しにでもこの焦りが伝わってしまっていないだろうか。


「おや?気にしていたのかな。それはすまない事を言ったね…。
ガリガリに見えるのに随分柔らかいから子供ってのはそんなもんなのかと思っていたんだよ。」

それとも着痩せするタイプなのかな。とくすくす笑う大佐に俺は全身の力を抜いた。
本来の俺ならここで大暴れの一つでもしなきゃいけないんだろうけど、そんな気力も沸いて来ず、それでも『男であるエドワード』を装う為に悪たれだけでもついてやらなきゃいけない。

「誰がガリガリで縦にも横にも小さい豆粒ドちびなお子様か?」


大佐は食って掛かってこない俺に少しだけ目を見開いて、繋いでいる手を引っ張り身体を引き寄せた。

おでこに当たる温もり。
瞳を覗き込んだ時よりももっと近い位置に大佐の顔があって慌てて両手を突っ張った。


「ちょっとマテ!なにすんだこらぁ!」

「体調でも悪いのかと思ったんだよ、すまなかったね。」


ぽんぽんと頭に手を乗せ身体を離す。

「熱は無いようだけど、少し疲れているんじゃないか?」

再び左手を掴まれ、少しだけ歩く方向を軌道修正した大佐の進む方向に一緒についてゆく。


「魚介料理はこの次だな、今日はあそこにしよう。」

「あそこ?」

「とても君好みの美味しいお粥を出してくれる店があるんだ。消化にもいいしボリュームもある。」

「ふぅん。」


黙って歩き続ける大佐はこちらこそ見ないがちゃんと気を使ってくれているようで、急ぎ足になる事もなくゆったりと歩く事ができた。
どこへ向かっているのか、街並みは段々と閑静になってゆき、街灯だけが道を照らしている。
メインストリートから10分そこら歩いただけで、こんなに変わるのかと感心する反面、こんな場所に美味しいお店があるのかとも思い始め、不安になって大佐の手をくいくいと引っ張った。


「どこいくんだ?」

「おや?さっき言わなかったかね、私の家だよ。」

「はぁ?言ってねぇ!!!!」

「まぁ気にする事はないよ。」


気にするに決まってるだろ!
俺は手を振り解きたくて思い切り引っ張った。
お互いの指が絡んで握り込まれていてはビクともしない。
っていうか、いつの間にこんな握り方されてたんだ?
これじゃ恋人同士みたいじゃないか!

「た、大佐っ!!」

「もうすぐ着くから大人しくしてなさい。」

「逃げないから手離してくれよー!」

「……無理だ。」

「何で??」

「君の手が気持ちいいから。」

「は?」


それは俺の手が小さいってことか?子供だって言いたいのか?お…女だから柔らかくてプニプニだってか?

最後の考えに少しだけ胸が痛んだ。
なんでこんな気持ちになるのか、俺にはさっぱり解らない。

頭の中はぐるぐるとまわり、ぼんやりと歩みだけを進めていた。
絡んでいた指が離れ、温もりが失われた事で大佐の家に着いた事に気付く。
鍵を開ける為だったのだろう、ごそごそとポケットを探る大佐。

見回してみるとそこは小さな門を抜けた扉の前で、大佐という地位からもう少し大きな家を想像していたのだが、存外に親しみがあって驚いた。


ガチャという音と共に招き入れられた屋内は真っ暗で、大佐が明かりを灯すまで少しの時間を要し、後ろ手に扉を閉めてしまったのを申し訳なく思ったが、それもおかしいと考え直す。


「アンタ、自分の家の電気のスイッチの場所わかんねーの?」

「普段は電気など点けずに通り過ぎるからね。」

「つけろよ…。」

「必要があれば、ね。今みたいに。」


ああ、あった。と声がしてふっと周囲が明るくなる。
思ったよりも広い玄関、真っ白な壁とほとんど置かれていない家具が余計に寂しげな印象を与えた。


「大佐…。」

「何かね?」

「掃除しろ、埃が積もってる…。」

「じゃあ君がしてくれたまえ。」

「等価交換でなら。」

「じゃあ今度頼む事にしようか。」

「まさか本気じゃねぇだろうな?」


一応それなりに帰ってきてはいるらしく、人が歩く中央部分は綺麗なものだ。

そろりと一歩を踏み出すと、にこにこと気持ちの悪い笑いを浮かべた大佐が背中を押す。
まっすぐに通されたのはリビングで、作ってくるから待っていろと文献を一冊手渡された。

「君の欲する情報とは違うが錬金術関連の最新のものだ、楽しめるだろう?」

「あぁ、さんきゅ。」


ぱらりと紙を捲り始めると、大佐は安心したように肩を上げてキッチンがあるであろう扉の奥へと入っていった。





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お待たせいたしました。(アンケートのメッセージしかと受け取りましたよ!)
お久しぶりの更新になってしまい申し訳ありませんでした。
狼さんのお家に行っちゃったエド子ちゃん大丈夫でしょうか?

pana 2005/11/24








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