拍手御礼連載小説
『ロイ・マスタングの晩餐1』







食事はまるで針の筵に座らされているような感覚のまま始められた。

周囲の緊張感に全く気付く事無く、始終にこにこと可愛らしく笑顔を振り撒く鋼のの残酷なまでの鈍感さに思わずがくりと項垂れる。
目下私を目の敵のように扱う鬼の副官と鎧の弟はいっそ清々しい程に爽やかなオーラを漂わせつつも、ちょっとでも触れたら殺すぞ位の過激さで、時折私を睨み付けた。

しかしそれも束の間、一口鋼のが手ずから作ってくれたシチューをスプーンで掬い口に運んだ途端、私の心は底知れぬ至福に包み込まれたのだ。

幼い頃母親を亡くし、過酷な道程を経て今、食事も取れぬ身体となった弟と旅暮らしの日々。
文献や研究に夢中になっては食事を疎かにする姉の愚痴を何度か弟の口から聞いていた。
いくら好物とは言え、ここまでの料理を作れるなんて思ってもみなかった。

ほくほくと口の中でほぐれるじゃがいも。
大きめに揃え切られた野菜たちはきちんと中まで火が通り、それでいて風味を損ねる事は無い。
味は程よくなんとも優しい家庭の味がして、どんなにか素晴らしい母親の元で育ったのだろうと想像できた。

今すぐ抱き締めて頬擦りしてその愛らしい唇に吸い付きたくなる衝動。

鋼の、君は良い奥さんになるよ!!(勿論私の)
いつか二人で赤い屋根の白いお家に住もうっ!(当然確定)

感動の余りつんと痛む鼻をすすり、ふと横を見れば私を穴が開くのではないかというほど見つめている金色の双眸。
頬を薄紅色に染め、少し緊張しているのだろうか、きゅっと口元は引き結ばれ。

私はこれでもかと幸せそうに微笑んで、鋼のが待っているであろう言葉を口にした。


「とても美味しいよ。君は料理がとても上手なんだね。」
「本当に…手際が良かったから上手なのだとは思っていたのだけどまさかこれ程とは思わなかったわ!」

「本当に?嬉しい!!」


口々に伝えられる褒め言葉に、ぱぁぁと花が綻ぶように笑った鋼ののなんて眩しい事か!
決して大袈裟なのではなく、心からの賛辞を受け、ほっと安心したのか鋼のもやっと手元にセッティングされたスプーンを握り締めた。


「大方の料理は錬金術の師匠から叩き込まれたんだけど、これだけは母さんの味なんだぜ?」


遠く優しい過去に想いを馳せるように目を細め、そう呟いた鋼のの頭に珍しく邪念など無しに手を置き、何度も何度も撫でてやった。
気持ち良さそうにくふふと笑い、ほんのり頬を染める。
私の想いに気付いたのだろう、中尉もアルフォンス君も攻撃を繰り出す事無く、私が撫でているのを見守っていた。
鋼のはシチューを豪快に掬うと口を大きく開けてぱくんとかぶりつき。


「ん!我ながら美味い!」


ほっこりと幸せそうに頬を染めてもぐもぐと咀嚼した。
大き目のじゃがいもを頬袋一杯に詰めて、一見小動物のようなのだが、ちょもんと噤んだ口端には、少しだけはみ出したシチューがついていて、何だか妙な気分にさせられる。


「は…がねの、口の横についてしまってる、よ?」

「ん、どこどこ?」

「や、そっちではなくて…っ!」


頻りに反対側の頬を撫でていたエドワードは、無邪気にも両目を瞑り私の方に顔を寄せてきた。
ほんのりと薄く開かれた唇に、思わずごくりと唾液を飲み込む。


「とって。」

「ホワァァァッ!!??」

「ちょ、姉さんっ!僕が取ってあげるから!そんな可愛い顔を変態に近づけないでよ!!」


突拍子も無い申し出に、どこから搾り出したのかと自分でも不思議になるような素っ頓狂な声を出し、二人の遣り取りにいち早く反応した弟が声を荒げた。
かしょ、と小さく音をさせて椅子から立ち上がろうとする弟をむっとしたように手で制し、再び私のほうを向いた鋼のは、何の気なくにっこり笑ってシチューを拭ってくれと催促してくる。


「前に座ってるお前より横に座ってるたいさのほうが近いだろ?無駄なことすんなよ。」

「でも…。」

「鋼のっ!」

「たいさ〜もったいないから舐めてもいいよ?」

「ちょっ!」

「エドワード君っ!」



END
拍手ありがとうございます!!

お食事編に突入です。
相変わらずだらだら続くこのシリーズですが、今でも沢山のお声を頂き嬉しく思っております。

pana 2007/3/28








無断転載禁止


拍手ありがとうございました!
連続拍手は 10 回まで可能です。
コメントは文字数無制限です。どうぞお気軽にご利用ください♪
無記名でも投稿できます。現在全コメントにレスをさせて頂いておりますので、よろしければ数日後ご確認ください。
お名前

- PatiPati (Ver 2.1) -